グミに負けて大ピンチ!チューインガム業界サバイバルレース「ロングセラーを開発せよ!」
苦境が続く「ガム業界」
もはや、チューインガムは「オヤジのおやつ」になっているのかもしれない。 侍ジャパンのWBC優勝に列島が歓喜した昨年3月、製菓業界最大手の巨大メーカーである明治が下した決断が、ガム業界を震撼させた。 【商品一覧】キシリトール、クロレッツ、マーブルガム… 各社の"ガム"がズラリ…! 「『キシリッシュ』と『プチガム』の販売を終了し、ガム市場からの撤退を表明したのです。『キシリッシュ』といえば、福山雅治や木村カエラなど著名人を起用したCMを大々的に打っていた看板商品の一つ。その衝撃は想像以上に大きなものでした」(業界紙記者) 明治の撤退には理由があった。最盛期の’04年に約1881億円を記録していたガム市場の売り上げが、’22年には710億円と半分以下にまで落ちこんだのだ。 一方、長らくガム市場の後塵を拝してきたグミ市場は、’21年に売り上げベースでガム市場を追い抜いた。 「ガムは口の中では完結しない菓子です。いうまでもなく、紙に吐き出して、包んで捨てる必要があります。ところが、テロ対策などのために駅のホームからはゴミ箱が消え、中小規模の公園からもゴミ箱が消えました。また、イヤホンをしながら通勤や通学をする人が増えたことも大きい。咀嚼(そしゃく)音が音楽や動画の音声をジャマしてしまいますからね。 現在、ガムの主な購買層は団塊世代で、若者はガムを『ゴミを捨てる手間のかかる、スマートさに欠ける菓子』と認識しています。口臭予防なら、そのまま口の中で溶けていくミントタブレットが選ばれやすい」(製菓業界の専門家としてテレビなどに出演するお菓子勉強家の松林千宏氏) 大手の一角が崩れて苦境が続くガム業界において、奮闘を続けているのがロッテだ。同社は『ガーナミルク』や『雪見だいふく』、『チョコパイ』など多様なロングセラーを抱えるメーカーだが、1948年の創業時はチューインガムの製造販売を主業としていた。 「ロッテ初のロングセラーといえば、’57年発売の『グリーンガム』でしょう。脱臭・殺菌作用のある葉緑素を配合したこのガムは、発売当初から”お口のエチケット”として人気を博しました。’60年に発売された青いパッケージの『クールミントガム』とともに、『グリーンガム』は空前の板ガムブームを巻き起こしたのです。’83年には辛口ミントとカフェインを配合した『ブラックブラックガム』が発売。眠気対策の機能性を打ち出した画期的な商品でした」(前出・記者) ◆板ガムから粒ガムへ ガム市場を牽引してきたロッテに転換期が訪れたのは、’97年のことだった。虫歯の原因となる酸を作らない甘味料であるキシリトールが、厚生省(当時)によって食品添加物として認可されたのだ。 この甘味料を真っ先に自社製品に取り入れたのが、明治とロッテだった。日本チューインガム協会の佐藤誠氏が話す。 「ロッテの『キシリトール』と明治の『キシリッシュ』は、ほぼ同じタイミングで粒ガムとして発売されました。それ以前は、ガムといえば砂糖入りの板ガムが主流で、歯に悪いとされていた。ところが、キシリトール入りガムの登場によって、ガムはむしろ『歯にいい健康食』となったのです。これに伴い、ガム市場のトレンドは、板ガムからシュガーレスの粒ガムへと移行していきました」 板ガムから粒ガムへ――。この転換点を完璧に捉えたロッテは現在、ガム市場において6割以上のシェアを誇る絶対王者として君臨している。 一方、当初から粒ガムに重点を置いて成功を収めたのが、アメリカの食品メーカーであるモンデリーズの日本法人、モンデリーズ・ジャパンだった。 「’85年に世界初のスティック型個包装粒ガムを発売したのはモンデリーズでした。これは日本でも『クロレッツ』という名前で販売されていましたが、当初は板ガム人気に押されていたのです。ところが、’90年代後半の”キシリトール革命”によって粒ガムブームが起こった。モンデリーズはそれを見逃さず、虫歯の始まりを抑制する効果や、歯の酸への耐性を増強する成分である『CPP-ACP』を配合した『リカルデント』を’00年に発売し、’02年には『クロレッツ』の甘味料にキシリトールを導入しました。これにより、モンデリーズは日本でロッテに次ぐガムメーカーとしての地位を確固たるものにしたのです」(前出・記者) かくしてガム市場は’04年に最盛期を迎えることになったのだが、先述の通り、以降は凋落の一途を辿(たど)っている。経済ジャーナリストの高井尚之氏が話す。 「ここからガム市場が挽回できるとしたら、キシリトール入りガムと同等か、それ以上の画期的な健康志向性を持つ新たなロングセラーが開発される必要があります。現代人は嚙(か)む回数が少なく、戦前に比べると半分以下になっているという報告もある。口臭予防効果を謳(うた)うタブレットでは、嚙む力を鍛えられません。『嚙んで健康になれる』というガムの魅力を押し出す必要があるでしょう」 ’18年に人気商品だった『キスミント』の販売終了を決断した江崎グリコは、高井氏の言葉通り、健康志向性を前面に押し出した『POs-Ca(ポスカ)』で生き残りを懸ける。ポスカとは江崎グリコが研究開発したリン酸化オリゴ糖カルシウムで、その名を冠した同商品には、初期の虫歯の再石灰化・再結晶化を促進する効果があるという。つまり、初期の虫歯をガムの力で治せるのだ。 「江崎グリコは『POs-Ca』にフッ素を加えた『POs-Ca F』も展開しています。フッ素が加わることで、唾液中のカルシウムが歯に届きやすくなり、より高い再石灰化効果を得られるのです。これは、歯科医院で販売されるほどの高評価を得ています」(前出・記者) やはり、ガム業界のサバイバルレースで生き残るには、健康志向が絶対条件なのだろうか。否、あえて時代の逆を行く商品を残し続けることで独特の存在感を放っている老舗企業がある。愛知県名古屋市に本社を構える丸川製菓だ。 「丸川は1947年からガムの製造を始め、ロッテのグリーンガムとほぼ同時期の’59年、今でも主力として販売されている超ロングセラーの『マーブルガム』を発売。それ以降、一貫してフーセンガムのみを作り続けています。現在、『マーブルガム』はアジアを中心に約20ヵ国へ輸出され、メイドインジャパンのガムの代表として大人気なのだそうです」(前出・松林氏) 時代の流れをつかむ開発力か、はたまた初志貫徹のプライドか――。窮地を迎えたガム業界のサバイバルレースは、激しさを増すばかりだ。 『FRIDAY』2024年12月13・20日合併号より
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