DAIFUKU・オリジン|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #18
DAIFUKU・オリジン|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #18
誰にでも駆け出しのときはあるはずだ。自分の好きなことを全力かつ無心でする。そして少しずつその業前を向上させていく。上達するにつれて自信がつき、モチベーションにも薪が焼べられさらにスキルが伸びていく。そんな折にその道の先人からお褒めの言葉をいただけたとあれば……。この季節にあったエピソードを思い返したとき、こういうことがありましたという第18回である。 編集◉PEAKS編集部 文・写真◉高橋広平。
「DAIFUKU・オリジン」
フォトエッセイのメインタイトルに「旬のライチョウと……」と謳っていることもあり、直近ないし過去の同じ時期に撮影した作品を題材にエッセイを書いているのだが、第1回に紹介した「DAIFUKU」と同様の純白の冬羽に換羽したライチョウを取り上げられる季節になった。 私がライチョウに出会ったのが2007年春のこと。そして翌春にそれまで勤めていた会社を辞め、彼らが棲む山域の山小屋に勤めはじめることとなる。今回の話はさらにその翌年である2009年の出来事である。 山小屋にはさまざまな常連客がいて、その中には山岳写真を嗜む諸先輩もいる。私が小屋に在籍していた期間はそのメンツが豊富で、うち何名かの写真家の方々とはとくによく交流をさせていただいていた。以前にも触れたことがあるかもしれないが、仕事のあとの晩酌時などに酒を酌み交わしつつお勉強をさせていただいていた。 私の知る山岳写真家の先生たちは、皆それぞれの思想や矜恃があり、被写体となる山岳の知識はじめ、そこに咲く植物や周りの生き物にも博識であった。ひとりは小屋の従業員と写真の師弟関係になっていたり、またひとりは身に付けた料理の腕前をスタッフに披露してくれたりとさまざまな触れ合いがあった。 もちろん写真の業前は確かで山雑誌では常連、なかには海外の美術館に作品が所蔵されている先生もいる。そんな先人たちの何気ない一言二言は駆け出しの撮り手にはみな金言であった。 そんな日々のなか、私はライチョウを探しては試行錯誤を繰り返しシャッターを切っていた。当時は近年ほど降雪のムラが少なく、11月半ばとなれば安定して稜線に根雪が張り付いていた。柔らかく透き通るような白い新雪を掻き分けるライチョウをその目にしたときの愛おしさときたら筆舌に尽くし難い感動がある。 オスはまだ微妙に秋羽が残りマダラ模様の個体もいるが、メスはその多くが純白の冬羽への換羽を済ませている。余談かつ私個人の見解であるが、オスの方が換羽が遅いのは雪のキャンバスにおいてメスよりも目立つことにより、捕食者の注意を引くことを狙っているのではと思っている。 その日、幾度となく対面していたメスのライチョウをモデルにシャッターを切らせてもらっていた。まだ無我夢中で撮っていた時期ではあったが、この時は不思議とフレーミングを意識しつつ撮影できていたと思う。 その夜、ちょうど宿泊していた先生のひとりに「こんなの撮れましたー! 」と報告。面倒見のよく気さくなその先生の反応は……、 今回の一枚は、「お前もこういうのが撮れるようになったんだな~! 」とプロの写真家からお褒めをいただいた一枚。まだまだ駆け出しの人間がその道のプロに評価されるということは、目の前にそびえる巨大な壁に挑むために必要なハーケンを手に入れたようなもの。そしてこのハーケンはいまも錆びず、折れず、ライチョウの写真を撮り続けるという大きな壁を登る私を支えている。 こうして生まれたこの一枚はのちに私の代表作となる「DAIFUKU」シリーズの記念すべき第1号となるのであった。