【ライバル・バイク比較】ヤマハ「トレーサー9GT」VS トライアンフ「タイガー900GT プロ」|888cc・3気筒ツアラー対決(ノア セレン編)
似て非なる2台のツアラー、トレーサーはライバル不在か
もう先に書いちゃおう。トレーサーはアドベンチャーじゃないぞ! スポーツ性よりも快適性を追求したカウルがついてて、タンデムや荷物の積載も考えたシート&キャリア類があって、距離を走ることを考えられているバイクだと、ついついアドベンチャーカテゴリーな気がしてしまうけどそうじゃない。 【写真はこちら】「トレーサー9GT」と「タイガー900GTプロ」の走行シーン 独自のポジションにいるのがトレーサーでヤマハでは「アジャイル(機敏)&ミニマリスト(最小限)・トラベラー」とうたっている。トレーサーはアドベンチャーというよりは、ホンダのCB1300スーパーボルドールなどの、かつて各社から出ていたカウル付ビッグネイキッドをモダナイズしたようなツアラーなのだ。 これを踏まえて2台の違いを比べてみると腑に落ちやすいと思う。 そのトレーサーだが、元となっているのはMT-09だから動力性能的にはとっても元気いっぱいだ。120PSという最高出力だけでなく、トルクフルなトリプルが常用域から力強さを発揮するさまはかつてのビッグネイキッド群より排気量が少ないことを補っているかのようだし、軽量な車体がもたらす運動性もとても現代的。 とくに4パターンのライディングモードを最もシャープな「1」に設定するとMTシリーズのDNAを誇示するかのような活発さを見せてくれ、ツアラー然としたルックスからは想像できない高いスポーツ性を楽しませてくれる。 対するタイガーは、車体もエンジンもしなやかさが印象的だ。独自のTプレーンクランクは120度トリプルのスムーズさをあえて崩して独特のトルク特性を追求。これがオフロードだと本当にトラクションに有利に働くそうだが、ツアラー/アドベンチャーとして見た時でも、場面を選ばない付き合いやすさという意味で恩恵があると感じた。 他のトライアンフモデルでは120度クランクもあるのだが、そちらはけっこうガオッ!とスポーツをアピールするのに対して、Tプレーンはカドが取れていてアクセルの開け始めや、その直後からのトルクの立ち上がりに優しさがあるのも魅力。これはオフロードだけでなく長距離ランにも向いた性格に感じた。 タイガーはハンドリングも優しい。サスが良く動くということと、19インチホイールをはじめとする車体の設定がそうさせるのだろう。その良く動くサスを特別意識せずに、ブレーキもソコソコに「ほらヨッ」とコーナーに放り込んでしまえば、バンク角が増えるほどにグイグイと内側に向いて、コーナーのアールに関わらず思いのほか積極的にクリアしていく。車体のピッチングを意識せずともオンザレール+αで曲がっていくのはBMWのテレレバー的な感覚もあって面白い。 対するトレーサーはフレームからしてビシッと筋が通っている頼もしさがあるし、足まわりも格段にロード向け。全体的に重心が低く、高速道路でもワインディングでも常にビシーッビシーッと走ってくれるダイレクトさが魅力。ただ一方で舗装林道など状況が悪くなると電サスにもかかわらず路面に弾かれるような感覚もあって、その弾かれ感が車体の振れにつながらないように、しっかりとしたニーグリップを求められた場面もあった。 結局振出しに戻ってしまう。タイガーはトライアンフ渾身のアドベンチャーだ。660から1200までラインアップするタイガーシリーズの大本命と言えるベストバランスに思えるし、それこそVストローム(650/800)などと同じガチンコのカテゴリーでスキもない。対するトレーサーは新世代ツーリングスポーツであり、舗装路でスポーティにツーリングを楽しむには最高のパッケージ。むしろ直接的なライバルが存在しないのが不思議なぐらいだ。
ノア セレン