井浦新×永瀬正敏インタビュー 甲斐さやかの魅力がつまった5年ぶりの新作『徒花-ADABANA-』
甲斐監督の現場の楽しみ
――お話を聞いていると1回ではなく、2回、3回と観ることで更に面白味が増すような気がしています。井浦さんはアイディアなど出されたりしたのですか。 井浦:いいえ、出してないです。甲斐監督の現場の楽しみって、もちろん監督とのセッションという楽しみもありますが、甲斐監督の世界観にどこまで浸るかだと思っています。自分のアイディアではなく、甲斐監督の作品の中に染まっていく中で感じたことなどを伝えあったりして、「それならこういうやり方でトライしてみよう」というのはあっても、自分のアイディアを甲斐監督に示していくというのは、あまり‥‥、そういうのではないんです。凄く純粋、先ほど永瀬さんも【相津】に対して純粋という言葉を使っていらっしゃいましたが、それぞれの役が持っているもの、【相津】もそうだったんだと思った時に【新次】のキーワードも純粋さだったんです。そうなると希子さん演じる【まほろ】もその他のキャラクターも皆、何らかの純度を背負ってこの作品に居るんだと思いました。そう思うと余計に甲斐ワールドを汚したくないんです。 ――確かに監督の思想を押し付けるのではなく、観客への投げかけというアプローチの作品。それが純度として役で表現されているとお話を聞いていて思いました。お二人は長い間この業界で仕事をされていますから、海外の監督さんも含め、様々な監督とお仕事をご一緒されています。ご自身が俳優として立つ上で大切にしていることを教えて下さい。 永瀬:僕は【信じること】です。もちろん監督を信じていますし、自分の役も信じています。そして映画を信じることを一番にしています。 映画は物語です。ドキュメンタリーでないかぎり、架空というか嘘を皆で一生懸命作り上げていきます。そこにもう1つ嘘をのっけてしまうとお客様(観客)に絶対にバレると思うんです。だから信じて、信じて、精一杯生きる、ということをしっかり行う。僕は俳優の訓練を受けたことがないんです。劇団に入ったり、お芝居のワークショップに行ったりしたこともありません。相米慎二監督に言われたこと、そうは言っても、監督は具体的には何も言ってくれませんでしたが(笑)、現場で体験したことで言うならば、人を見るということ。あと、相米監督に役について聞いても「そんなこと俺が知るか。お前が演じているのだからお前が一番知っているはずだ」と言われた言葉があるから、監督、カメラマンさんはじめスタッフの皆さん、共演者の方、ロケ地も含め、全てを信じること、どこの国に行ってもそれは変わらないです。 ――自分の中で理解が出来ない役を演じる時は、どうされるのですか。 永瀬:ひたすら役を信じます。監督のジャッジを信じます。 ――難しく、大変ですよね。 永瀬:演じる役には自分とはかけ離れた役もありますからね。 ――永瀬さんは【信じる】ですね。井浦さんは何を大切にされていますか。 井浦:今、永瀬さんのお話を聞いていて、言い回し、表現の仕方は違うのですが、永瀬さんに共感をしています。僕は恩師である若松孝二監督から頂いた言葉を指針にしています。でもいまだにちゃんとわかっていないので追い続けています。僕は【心】なんです。「自分の心のままにやりなさい」だったり、色んなふうに例えられるのですが、【信じる】という言葉と【心】ってちょっと親戚のようだとも思いました。でも、その言葉を指針にしていても出来ない時もあったりして“まだまだだ”と思ったりもします。きっとそれの追求なのだと思います。お芝居にしても、現場やスタッフさん、それこそ人との関わり方にしても、とにかく【心】というものを大切に、全てと向き合っていくことを大事にしたいと思っています。 ・・・ 甲斐さやか監督の長編映画デビュー作『赤い雪 Red Snow』で主演を務めた永瀬正敏さんと、その時、助演を務めた井浦新さんが、今作では、井浦さんが主演、永瀬さんが助演という立ち位置で撮影に挑んだ映画『徒花-ADABANA-』。その時からその作風を絶賛し、次回作を切望した2人がまた甲斐さやか監督の世界で、前作とは違う色合いのキャラクターで物語を紡いでいったのがとても興味深かったのですが、インタビューを聞くと、甲斐監督の脳内の世界をリスペクトし、自分達なりに読み取って、その感覚を信じて物語の世界に立っているのか、と理解しました。物作りを皆でする上で一番大事なことなんですよね。
取材・文 / 伊藤さとり(映画パーソナリティ)