「三菱UFJ貸金庫事件」の全容は闇の中…"家宝のダイヤ"を失った男性が「被害届は出さない」と肩を落とす理由
三菱UFJ銀行は、40代女性行員が貸金庫から現金や貴金属を盗んだとして、11月14日付で懲戒解雇した。元行員はスペアキーを使って貸金庫を開けており、被害に遭った顧客は約60人、被害額は十数億円相当と公表している。しかし、他にも数十人から被害に遭った可能性があるという申告があったといい、被害の全容は分かっていない。渦中の玉川支店の貸金庫から貴金属がなくなったという男性に話を聞いた――。 【画像】A氏の貸金庫の中身 ■「おそらく被害はないと思われますが…」 都内在住の投資家A氏は、11月下旬に三菱UFJ銀行玉川支店から1本の電話を受けた。貸金庫窃盗の件であった。 「何事かと思いましたよ。玉川支店の貸金庫で最後に出し入れしたのはコロナ前でした。預けていたのは土地の権利書と貴金属10点ほどで現金はありませんでした。 支店の担当者からは、『色々ありましたけども、おそらくあなたの分のボックス(貸金庫)に被害はないと思われますが、念のため確認をお願いしたい』と言われたんですよ。その時期は猛烈に忙しくて、やっと確認に行けたのが昨日(12月16日)でした」 ■最小タイプで年間利用料は約1万5000円 A氏が玉川支店の貸金庫を使い始めたのは2003~2004年頃。住宅を購入し、権利書などを保管する場所としての利用が最初だった。 貸金庫を利用する際には銀行の事前審査があり、富裕層などから「ステータス」としても人気のサービスになっているが、当時はまだ空きもあったとのことだ。一度契約すると何十年と使うのが一般的なので、今では小さなタイプでさえ契約は難しいという。 A氏の貸金庫は一番小さなタイプで深さは5~6cm。A4サイズの書類が入る大きさである。年間の契約料は約1万5000円(税別)だ。
■本人しか中身が分からない「ブラックボックス」 貸金庫の中身は、原則として利用者本人しか確認できない。ちなみに、三菱UFJ銀行の「貸金庫規定」には、以下の記述がある。 ---------- 第2条 (1)貸金庫には、次に掲げるものを格納することができます。 ① 公社債券、株券その他の有価証券 ② 預金通帳・証書、契約証書、権利書その他の重要書類 ③ 貴金属、宝石その他の貴重品 ④ ①から③に掲げるものに準ずると認められるもの (2)当行は(1)①から④に掲げるものについても、相当の理由があるときは格納をおことわりすることがあります。 (3)危険物や変質、腐敗のおそれがある等、貸金庫の通常の用法による保管に適さないものを格納することはできません。 ---------- 中に入れてはいけないものが示され、「相当の理由があるときは格納をおことわりすることがあります」とあるが、A氏が貸金庫に預けた際に中身を確認された記憶はない。つまり、銀行は中に何が入っているのかを把握しておらず、A氏しか分からない「ブラックボックス」ということだ。 ■「ダイヤの指輪とネックレスがなくなっていた」 貸金庫を開けるには、専用のカードと金属の鍵の両方を使う。金庫の中に緑色のケースがあり、そこに預けるものを入れるそうだ。A氏が利用開始からの約20年間で出し入れしたのは数回とのことであった。 「確認作業は、普通に貸金庫を利用する感じで行いました。警察の立ち合いも銀行員の立ち合いもありませんでした。ほかに貸金庫利用者はいましたが、私のように、連絡を受けて被害確認のために来ていた人はいなかったと思います。 金庫の鍵を開けて緑色の箱を出して開けてみたら、預けていたはずの貴金属のうち最も高い価値のダイヤモンドの指輪と時価100万円弱のプラチナのネックレスの2点がなくなっていました。 ダイヤの指輪は曾祖父から代々伝えられてきた形見のようなもので、何十年と大切にしてきたものです。古いものなので鑑定書はありませんが、1億円くらいするんじゃないかと思います。それが、5年ぶりに開けてみたらなかった。しばらく、意識が働きませんでした。あとで、じわじわと盗まれたことの衝撃と精神的な辛さ、悲しい気持ちに襲われました」