貿易赤字なぜ続く?/木暮太一のやさしいニュース解説
12月18日に発表された11月の貿易統計によると、貿易収支(輸出-輸入)は1兆2929億円の赤字で、赤字は17カ月連続です。なぜ貿易赤字が続いているのか、また赤字はいけないことなのか、経済ジャーナリストの木暮太一さんが分かりやすく解説します。(THE PAGE編集部) *
昔は輸出しすぎて「日米貿易摩擦」も
2008年、日本は28年ぶりに貿易が「単月赤字」になりました。その後、2011年には年間トータルで貿易赤字になり、2012年にはさらにその赤字額が拡大しています。 日本はかつて「加工貿易」でどんどん海外に商品を売っていました。「日米貿易摩擦」という言葉に象徴されるように、日本は「輸出しすぎだ!」と怒られるくらいだったのです。それが最近では、輸入が増え、輸出額よりも多くなりました。 ―――「なんでなの??」 よく言われるのが、「東日本大震災がきっかけ説」です。震災の影響で自動車などの輸出が減り(輸出減少)、同時に原発が停止したことで、代わりの燃料(原油・液化天然ガス)をより多く輸入することになりました(輸入増加)。そのため、「輸出が減り、輸入が増え、貿易赤字になった」と言われているのです。 ―――「うーん、、、。みんなで復興に向けて力を合わせないとね!」 たしかに、震災は甚大な被害をもたらし、それによって人々の心にはもちろん、日本経済にも大きなダメージを与えました。しかし、復興したらまた元に戻るかというと、そうとは言えません。 というのは、貿易の構造自体が変わっているからです。
貿易の構造が変わった
―――「貿易の構造? どういうこと??」 日本は長い間「歴史的な円高」に悩まされてきました。円高になると輸出企業の収益が減るからです。たとえば、「1ドル100円」が「1ドル75円」になった場合を考えます。日本で7500円の商品は、 「1ドル100円」の時、アメリカで75ドル(100円×75ドル=7500円) で売ることができます。でも、 「1ドル75円」になると、この商品は100ドル(75円×100ドル=7500円) にしなければ売れないのです。 アメリカ人からすると、同じ商品が75ドルから100ドルに値上げされたことになります。値上げされれば当然買わなくなりますので、この為替の悪影響を防ぐために、日本企業はどんどん現地に工場を移動させて、現地で生産活動をするようになったのです。日本にはいわゆる“産業の空洞化”が起きていたわけです。 ―――「産業の空洞化って、前から言われてるよね? まだ続いていたの?」 日本の全製造業の売上を100とすると、海外の現地法人で生産されているのは「14.6」(2002年)でした。また2011年には「18」まで上がっています。それくらい日本の海外支社の比重が増えてきているということなのです。 ―――「いまいちピンとこない……」 国内の製造業の売上は年間で約400兆円です。そして海外の現地法人の売上は、この18%に相当する約72兆円。非常に単純化させて、「もしこの分を、日本から輸出していたら?」と考えると、72兆円だけ日本の輸出が増えていたことになります。 また、もし海外の支社の比重が2002年と変わらなかったら13.6兆円も日本からの輸出が増えていたことになります。 ―――「なるほど、日本から輸出するんじゃなくて、どんどん現地工場で作って売っているわけだね」