貿易赤字なぜ続く?/木暮太一のやさしいニュース解説
海外からの「逆輸入」も
同時に、この現地工場からの逆輸入も日本の貿易赤字を増やしています。 ―――「どういうこと?」 日本は自分たちで必要な部品や材料を、生産コストが安い海外で生産しています。東南アジアで製造した方がコストが安くなりますよね。つまり、コストダウンのために海外で生産し、それを“輸入”しているのです。 海外の現地法人が日本に販売している割合は、アジアが18.1%、欧州が3.2%、北米が2.6%です。金額にして、 アジアから :8.7兆円 ヨーロッパから:3460億円 北米から :5780億円 合計約9.7兆円を、現地法人から“輸入”しているのです。「海外の方が効率よく生産できる」という状況が変わらなければ、この“輸入”はなくなりません。そして、そのように状況が変わることは、当面はないでしょう。 つまり、日本企業は、自分たちの利益を守るために海外に工場を移し、また利益を確保するために安く生産できる海外工場から“輸入”しているわけですね。この構造は、震災から復興しても変わりません。 ―――「なるほどねぇ、じゃあ日本はこれからも貿易赤字が続きそうだね」 そう考えられます。
貿易赤字は悪いこと?
―――「でも、そもそも『貿易赤字』っていけないことなの?」 貿易赤字が増えるということはつまり、「日本製が売れなくなり、外国製が売れるようになる」ということですね。これはつまり、日本人の雇用が減り、外国人に仕事を奪われるということでもあります。 これまで日本の工場であった“ライン”の仕事は、安い海外の労働力に奪われました。代わりに日本人のライン労働者を吸収する産業が育たないと、失業率が高くなってしまいます。国民がどんどん貧しくなってしまいます。 「貿易赤字になっても、投資やコンテンツ権利収入などで外貨を稼ぐことはできるから問題ない」という声もありますが、本当に「問題ない」と言えるでしょうか? 外国に投資して利益を得たり、権利収入を得るのは簡単なことではありません。特に日本人はモノの製造・販売には優れていますが、金融やサービスの扱いは苦手です。 「投資で外貨を稼げるから問題ない」と強がっても意味がありません。日本でしか作れない商品、新しい産業を必死に考え、それを海外に輸出することも常に考えておかなければいけません。 ----- 木暮 太一(こぐれ・たいち) 経済ジャーナリスト、(社)教育コミュニケーション協会代表理事。相手の目線に立った伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学などで多くの講演活動を行っている。『今までで一番やさしい経済の教科書』、『カイジ「命より重い!」お金の話』など著書36冊、累計100万部。最新刊は『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』 。