〈解説〉「コカイン・シャーク」、野生のサメで初の報告、危険度や解決策を研究者に聞いた
薬物にさらされながら生きる
サメはエラから直接コカインを取り込むこともあれば、コカインを含む小さな獲物を食べることもある。研究チームによれば、この食物連鎖を通じた生物濃縮は、過去の研究で検査されたほかの水生生物よりもサメのほうがコカイン濃度が高かった説明になるかもしれない。 「サメはコカインを人ほど早く代謝できないため、コカインが長く体内に存在することで、内分泌系が乱れ、ホルモンの調節に支障を来す可能性もある」と、米ネブラスカ大学の教授で、同大学水センター所長として河川に存在するステロイドを研究するダニエル・D・スノー氏は述べている。 スノー氏によれば、生物活性物質はストレスを引き起こすため、すでに個体数を減らしているブラジルヒラガシラが病気にかかりやすくなる可能性があるという。 「これは、コカイン汚染の危険性が増している証拠です」とイタリアにあるフェデリコ2世ナポリ大学の比較解剖学教授であるアナ・カパルド氏は話す。カパルド氏は、コカインが淡水のヨーロッパウナギに与える影響を研究しており、コカインにさらされたウナギは筋肉が腫れ、ホルモンが乱れ、ストレスが高まることを発見した。 ブラジルヒラガシラの論文を査読したカパルド氏は、「コカインが魚に害を与えているかどうか、『確信を持って言うために』、コカインの影響を受けている個体の臓器を調べる必要がある」と述べている。 ファナラ氏は「この研究結果に憂慮している」と語り、ブラジルヒラガシラは「一生、この薬物にさらされながら過ごすことになります。しかも、絶滅の恐れがある危急種です」と嘆く。 ただし、今回の研究には「大きな盲点がある」とファナラ氏は指摘する。ブラジルヒラガシラが捕獲されたレクレイオ・ドス・バンデイランテスの海から水のサンプルを採取していない点だ。 そのため、生態系にコカインがどのように存在するかをより広く把握するため、サッジョーロ氏はリオデジャネイロの流域でコカインの検査を進めている。
研究チームが示した解決策
コカインはもちろん、合法的な医薬品でさえ、「海への放出を抑制することは難しい」とスノー氏は述べ、こう続ける。 「排水を処理し、これらの化学物質が水中に放出しないようにすることは可能ですが、途方もない費用がかかります」 研究チームは論文で、ブラジルの規制当局に対し、海洋生態系に違法薬物の存在を認識し、法規制による監視で抑制することを求めている。 サメからコカインが検出されたことは、「この新たな環境問題に対処するため、強固な法的枠組みと積極的な対策が急務であることを浮き彫りにしている」と論文には書かれている。
文=Joshua Rapp Learn/訳=米井香織