渾身のZINE『のへのISSUE3』が完成!青森と岩手をまたぐ「戸(のへ)」エリアの文化に触れる
コロカルニュース
■一戸、二戸、三戸…九戸まである「戸(のへ)」の地域 青森県八戸市。コロカルにも何度も登場しているお馴染みのまちですが、「八戸」という字を初めて見て、「はちのへ」と正しく読める人は、そう多くないのでは? 【写真で見る】『のへの ISSUE3』特集1「紺重 菊池染工」 この「戸」を「のへ」と呼ぶ地名は、青森県東部から岩手県北部にかけて一戸、二戸と続き、四戸を飛ばして九戸まで存在します。 さかのぼること平安時代末期、これらの地域は馬の産地として有名でした。「戸」には「牧場」という意味もあることから、地域を9つに分けて馬産を管理していたことが、戸の始まりだといわれています。 鎌倉時代に入ると戸の地域は南部藩の領地となり、明治時代の廃藩置県によって、一戸と二戸、九戸は岩手県に、三戸と五戸、七戸、八戸は青森県に分かれました。とはいえ、地域に伝わる食や言葉などから、文化圏としてはいまも同じだということがわかります。 こうした戸に根づく文化を、現代の視点で編集・デザインをするプロジェクトが〈のへの〉です。主宰しているのは、青森県八戸市のデザイナー・編集者である髙坂真さん。 「藩政の区分って、いまみたいに自動車もなく移動が困難だった時代のものだから地形的にも理にかなっているんです。例えば、同じ青森県内でも八戸から津軽までは山を越えないと行けませんが、同じ南部藩だった岩手県北部は行きやすくて、心理的にも遠くない。〈のへの〉の活動によってこのエリアの人たちがつながって、お互いに助け合えるような関係性ができたらいいな、と思っています。県は違っても、いろんな輪があるといいですよね」 ■3~4年ごしの取材を経てつくられた『のへの ISSUE3』 〈のへの〉の活動のひとつに、戸のものづくりや文化を発信するZINE『のへの』の制作があります。企画から撮影、執筆、デザインすべてを髙坂さん自身で行っています。 2018年に発行し、現在は〈のへの〉のサイト上で閲覧できる『のへの ISSUE1』は、八戸市にも残る活版印刷所を取り上げており、復刻版が2号の付録になっています。2021年に発行した『のへの ISSUE2』では、八戸市に伝わる郷土玩具「八幡馬」のつくり手を訪ねています。 そして、完成したばかりの『のへの ISSUE3』では、戸に唯一残る昔ながらの染物屋に取材。さらに、エリア内の30の風流山車まつりを紹介しています。 『のへの』で取り上げる対象は、どのように決めているのでしょうか? 「僕のなかに使命感みたいなものがあって、『いま記録しておいたほうがいいんじゃないか』と、直感で思ったところを載せています。戸には、伝統的なものづくりを続けている職人が何人もいますが、後継者がいなかったり、時代に合っていなかったりして、今後どうなるんだろう、と思うことも多いので」 もともとものづくりが好きだという髙坂さんは、普段から気になる工房に足を運んでいるといいます。『のへの ISSUE3』で紹介している染物屋〈紺重 菊池染工〉を髙坂さんが記録し始めたのは、2020年のこと。当初は『のへの』に掲載することまでは考えておらず、“直感”で写真を撮らせてもらったそう。 読むと、髙坂さんと染め職人である菊池重幸さんとの間に、親しい人間関係が築かれていることが伝わってきます。 ■戸の風流山車まつりを網羅した、渾身の特集 一方、風流山車まつりの特集も貴重な記録です。風流山車の特徴は、動く仕かけがあるなど趣向が凝らされており、毎年つくり替えられていること。神話や昔話をテーマに施された華美な装飾が、見る人を魅了します。 戸とその周辺エリアでは、ユネスコ無形文化遺産に登録されている八戸市の「八戸三社大祭」のような大規模ものから、町民が自分たちのために行う小規模なものまで、30に及ぶ風流山車まつりが毎年開催されています。『のへの ISSUE3』では、髙坂さんがそのほとんどに足を運び独自の視点でレポートしています。