社会生活を学ぶスタートラインに立つ…小学校入学から卒業までの六年間で子どもたちに与えられた「ハードなミッション」
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
船出としての学童期
学童期は六歳から十二歳、小学校入学から卒業までの六年間を指します。 この時期は、登下校や授業など時間で区切られた生活がスタートし、学力や身体能力の獲得、仲間集団への参加、学校での居場所作りなどが開始されます。現代ではゼロ歳から保育所に預けられる子どももいますが、保育所や幼稚園では規則や指導も緩く、保育士も擁護的ですから、子どもたちも比較的自由にすごせます。しかし、小学校では生活指導や教育の圧力が強まりますから、小学校入学の時点で社会生活を学ぶスタートラインに立つことになります。 自分がどんな人間なのか、子ども社会の中でどんな位置づけなのか。それを会得していくことは、幼い子どもにとってはかなりハードなミッションです。 幼稚園まではほかの子どもとのちがいなどあまり気にせず、ぼんやりと生きていればよかったのが、学童期になると他者の存在を意識するようになります。勉強のできる子、運動が得意な子、足の速い子、絵がうまい子、歌や楽器の演奏がうまい子、学級委員、スポーツ大会の代表選手、みんなを笑わせる人気者、かわいい子、かっこいい子、目立つ子、目立たない子、裕福な家の子、貧しい家の子、いつも先生にほめられる子、叱られてばかりの子、すぐに怒る子、泣く子、ずるい子、乱暴者、うそつき、ませた子、エッチな子等々。 自分がどう評価されているのかも気になります。ネガティブなレッテルを貼られないよう気を引き締め、周到に気を配り、ほめられると喜び、うまくできると得意になり、失敗したら落ち込み、笑われたら屈辱を感じ、いじめられたら悲しみ、恥ずかしい目に遭ったら消えてなくなりたいと思ったりします。 そういう経験を経て、自己を確立し、六年をかけて自分の生き方を模索する、いわば人生の船出となるのが学童期です。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)