新型マセラティ・グランカブリオは、タイムレスな美しさを放つ! 3120万円の豪華オープンカーに迫る
あらゆる道を楽しめる
試しにグランカブリオの屋根を開け放ったまま、無謀にも高速道路を走ってみた。 普通のコンバーチブルだったら、キャビンのなかに風が巻き込んで髪の毛がボサボサになったり、車内に置いておいた軽いものがどこかに吹き飛ばされていったりしても不思議ではない。 ところが、グランカブリオは120km/h(新東名高速など一部高速道路には制限速度が120km/hに設定されている区間がある)で巡航しても、キャビンに風が巻き込んでくることはなかった。そのためにはリヤシート部分に「ウインドストッパー」という一種のネットを張る必要があるけれど、その操作は簡単そのもの。でも、操作は簡単でも効果はバツグンで、風の巻き込みはそよ風程度だし、隣に腰掛けたパッセンジャーと言葉を交わすのも容易。オープンで高速道路を走っているとは思えないくらいの気楽さなのだ。 ところで、日本に導入されるグランカブリオは最上級モデルの「トロフェオ」で、F1由来の“マセラティ・ツイン・コンバスチョン”を採用したV6ツインターボエンジンを搭載している。このエンジンは、わずか3.0リッターの排気量から実に542psを絞り出し、0~100km/h加速タイムは3.6秒というスーパースポーツカー並みのパフォーマンスを発揮するけれど、エアサスペンションを備えた足回りの動き方がしなやかで、ゴツゴツとした嫌な振動を伝えることは皆無。その印象もまたグランツーリズモと共通していて、ほんとうに驚かされる。 「そんな生半可な足回りじゃあ、ワインディングロードは楽しめないでしょう?」と。想像したくなるかもしれないが、ここでも、グランカブリオはいい意味で予想を裏切ってくれた。 コンフォート・モードやGTモードではあれほど快適だった足回りが、スポーツ・モードやコルサ・モードではほどよく引き締まってボディの動きを抑え込んでくれるので、タイトコーナーが連続するワインディングロードでもその走りは俊敏そのもの。といっても、足回りの設定は決して硬すぎないので、コーナーの進入でブレーキングすればほどよいノーズダイブを生み出してフロントの接地感を高めてくれるし、乗り心地だって極端に悪化することはない。この辺は、どんなにパフォーマンス志向のドライビングモードでも決して快適性を蔑ろにすることがないマセラティらしいところ。その根底にあるのは、長距離を高速かつ快適に移動するためのクルマ、すなわちグランドツーリズモの思想といって間違いない。 しかも、これだけ頑丈なコンバーチブルボディでありながら、軽快感がまったく損なわれていない点にも驚かされる。チーフデザイナーのクラウス・ブッセが描き出した“タイムレスな美しさ”にも目を見張らされるばかり。経済的に余裕があったら是非、手に入れてみたいと思ってしまったほど、魅力的な1台である。
文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)