2024年心に染みたドラマ振り返り! 「中高年をうならせた」3作品を発表
2024年のドラマはNHKの圧勝、配信系も本気出してきた印象だった。良作と好物はすべてふうーん録で書いたし、2度書いた作品もある。これで悔いナシと思っていたが、あれ? きちんと書いていない作品が。このままでは後悔して年を越せないので、ざっくりおさらいをさせておくれ。(編集部注:2024年12月26日発売の「週刊新潮」に掲載) 【写真をみる】「中高年を唸らせた」3作品には“豪華キャスト”がズラリ!
まずはAmazon Prime Video「1122 いいふうふ」だ。高畑充希と岡田将生がセックスレス夫婦のすれ違いと落とし前を、穏やかなトーンで演じた良作。家庭にセックスを持ち込まない試みは、理想的な夫婦のあり方と思いきや……という物語。決して婚外恋愛推奨ではない。お互いに寛容なフリをして割り切ったつもりでも、疑念や嫉妬やほころびが生じる。所有や束縛ではなく、無関心でもなく、お互いの自由を尊重することの難しさを描いていた。あと、婚外恋愛するなら相手を選べ、という教訓もな。 犬も食わぬ夫婦げんかではなく、議論・提案・容認・譲歩・反省を丁寧に実行する二人に、心の底から幸あれと願う展開だった。この願いが現実となって驚いたが、祝・結婚ということで。 他2作はNHK BSだ。
一つは「団地のふたり」。舞台は団地。若い頃に一度は実家を離れたものの紆余曲折を経て、再び団地に戻ってのんびり暮らす、55歳女性の幼なじみコンビ。イラストレーターのなっちゃんを小林聡美、大学非常勤講師のノエチを小泉今日子が演じた。同世代、離婚経験やら老親との同居やら、団地の管理組合問題に老朽化など、私の心にしみ込む要素が多過ぎてね。何の変哲もない日常だが、二人の距離感は友達としての理想形。最終回で魅せた「二人紅白歌合戦」も、ここに交じりたいと思っちゃった。 愛とか恋とか欲とか見栄とか夢とか希望とか努力とか我慢とか、人生にいらんもんをそぎ落として平穏にたどり着いた二人の日常は、延々と観ていたかったな。 もう一つは「母の待つ里」。ちょい不思議な設定だがファンタジーではない。田舎が舞台だが、ノスタルジーとも違う。進化した疑似家族体験に、人生の晩秋を迎えた中高年は心をうっかりわしづかみにされる。「ん? どういうこと?」→「なるほど、そういうことね」→「そうきたか」で、もらい泣き。全4話と短いが、最終話の寂寥(せきりょう)感がすごい。と同時に「もしかしたら……」というかすかな希望を抱かせる絶妙なラストでもあり。 設定も面白いが、疑似母親役を演じる宮本信子がとにかく深い。演じる女性を演じるという二重構造だが、ふとした瞬間に喪失感を抱える「素の自分」が出てしまう表情が精巧でね。この疑似母のとりこになる顧客を演じるのが中井貴一・松嶋菜々子・佐々木蔵之介・満島真之介らベテラン勢。全員が宮本の熱演にけん引され、化学反応を起こしたようにも見えた。彼らが無邪気に童心に返ったり、甘えたりする姿は珍しい。宮本の胸を借り、懐に思いっきり飛び込んだように感じたのよね。 これくらい染み込んで揺さぶって中高年をうならせるドラマが年間で数本あれば幸せ。2025年も頼むよ。
吉田 潮(よしだ・うしお) テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。 「週刊新潮」2025年1月2・9日号 掲載
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