考察『錦糸町パラダイス』4話。街を観るカメラと車からの視線に注目
錦糸町から一歩も出ないミカの事情
冒頭で安住が編集する映像に映っているのは、フィリピンパブ「サラマッポ」の在りし日の姿。母子で働いていたミカ(矢野あゆみ)は、店が警察に摘発されたことによって母とともにフィリピンに帰らなければならなくなってしまった。ミカは日本で生まれ育ち、それどころか錦糸町から出たこともない。ミカだけ日本に残ることもできるらしいのだが、彼女は迷った末、「仲良しで大好きなママ」のために、一度も行ったことのないフィリピンに「帰る」決断をする。錦糸町に生まれ育ち、いつまでも錦糸町から出ていかない人たち。彼らは同じように見えても、それぞれの事情があった。ミカは東京から自由に出ることのできない存在だったから、一度も出たことがなかったのだ。 3話でミカが幼なじみの心音に話したところによれば、本来ミカと母は働いてはいけなかったらしい。そのため強制送還となる。ミカは大助たちの前ではフィリピン滞在を「ちょっとだけ」なんて言っていたが、日本に戻るにはそれなりの期間と条件と手続きが必要なはずだ。もしかしたらもう戻ってこられない可能性もある。だから、ミカは心音が用意したミルクコーヒーを「最後」と言いながら飲む。フィリピンまで持っていけない、錦糸町から出たことのない自転車を、心音に託す。心音もそれをわかっていて、「いつかフィリピンに遊びに行ったときのため」に、ミカのノート(3話で一平が「サラマッポ」から回収したもの)を譲り受ける。 「デルコッファー」に並んで置かれた2台の自転車。くたびれた心音のシティサイクルに比べて、ミカの自転車はペダルの錆などそれなりに年季が入っているが、マウンテンバイク風でかっこいい。幼い頃からずっと隣にいた存在がいなくなってしまうことが、この並ぶ2台の自転車から伝わってくる。
謎が深まるQRコードの目的は何だ?
4話を経て、『錦糸町パラダイス』は群像劇なのだなと改めて感じた。錦糸町に暮らす人々のそれぞれの事情がチラチラと垣間見えていく。3話までは気持ち悪いセクハラ上司にしか見えていなかった東海林が、母思いの息子でもあることがわかったり。3話で海外経験や現在の入国管理局の仕事を自慢するだけだった遠田(森岡龍)が、いま自分がやっている仕事について「ある人にとってはいいことだけど、多くの人にとっては生活を奪うことをしています」と説明していたり。これから、さまざまな人の事情がさらに明らかになっていくのかもしれない。 地元のFM番組「星降る錦糸町」のなみえ(濱田マリ)とかおる(光石研)が話題にしていた街中のQRコード。以前は音楽アプリ会社社長の能(浅香航大)の不正受給、フィリピンパブが連れ出し行為を行っていたこと、東海林のセクハラ、さまざまな告発に使われているこのQRコードは誰が何の目的で貼っているのか、その謎がずっとドラマに横たわっている。 ●番組情報 ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』(テレ東) 企画・原案_柄本時生、今井隆文、太田勇 脚本_今井隆文、太田勇、石黒麻衣 監督_廣木隆一、太田勇、木ノ本浩平 出演_賀来賢人、柄本時生、落合モトキ、岡田将生 他 主題歌_MOROHA 『燦美歌』 Lemino、U-NEXTにて全話配信中(有料) ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。 Edit_Yukiko Arai
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