【イギリス総選挙2024】英労働党がマニフェスト発表、経済成長で「国を再建」と
イギリスの最大野党・労働党は13日、7月4日の総選挙に向けたマニフェスト(政策綱領)を発表した。党首のサー・キア・スターマーは、経済成長を促進することで「イギリスを再建」することを約束すると述べた。 「変革」と名付けられたマニフェストについてサー・キアは、14年にわたる保守党政権に「決定的に幕を閉じる」ものだと述べた。 労働党はこのマニフェストで、計画規則の合理化と企業投資の増加を通じて、富の創出を促進すると説明している。 一方、すでに発表済みの政策を超える新たな発表はなかった。サー・キアはこれについて、ことさらに目立つ派手な政策がないのは、むしろ長所だと主張。自分が立候補しているのは「サーカス運営の候補者ではなく、首相になるため」だと述べた。 ■前回選挙との違いを強調 労働党は、イングランド北部マンチェスターの生活協同組合(コープ)本部でマニフェストを発表した。 公共のエネルギー投資・発電会社「グレート・ブリティッシュ・エナジー」の新設、警察官の増員、旅客鉄道のほぼ全線再国有化などが含まれる。 サー・キアは、2019年の前回選挙での労働党マニフェストと、今回のマニフェストの違いを強調した。前回のマニフェストには、すべての大企業が従業員に10%株式を付与することや、全国民に無料ブロードバンドを提供すること、といった施策が盛り込まれていた。 党首の演説は、気候変動対策を求める抗議者からの野次で一時中断されたが、サー・キアは「私たちは5年前に、抗議する政党であることをやめている」と答えた。 「私は労働党党首として、パフォーマンスだけの政治という袋小路から、この党を引き離すことを目指してきた」 「私たちに魔法の杖はない。しかし、私たちにあるのは、そしてこのマニフェストが示すのは、信用できる長期的な計画だ」 ■そのほかの公約と財源は 労働党のそのほかのマニフェストは以下の通り――。 ・イングランドのすべての小学校に、無料の朝食クラブを導入する ・公的医療の国民保健サービス(NHS)が運営する病院において、診療待ち解消、新しいCTスキャナー導入、歯科治療の予約枠拡大のため、16億ポンドを振り向ける ・イングランドでメンタルヘルス(こころの健康)職員を8500人雇用する ・レイプ事件の訴追に関する専門法廷を新たに80カ所設置する ・イングランドで16歳未満がカフェイン含有量の高いエナジードリンクを買うことを禁止する ・「次世代」のたばこ購入を禁止する 労働党は、年間85億ポンドの税収増と、政府の「無駄遣いやその他の効率化」による15億ポンドの節約で、政策費用を賄うとしている。 提案されている増税には、私立学校の授業料への付加価値税(VAT)の導入、外国人が不動産を購入する際の印紙税に対する1%の追加課税、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ企業の経営陣に対するボーナス課税の引き上げなどが含まれる。 また、非居住納税者(ノンドム)や石油・ガス企業への課税について、現政府の計画に含まれる「抜け穴」をふさぐことで、歳入増につなげるともしている。 一方で、グリーンエネルギー・プロジェクトへの投資計画に充てるための追加の政府借入を、年間35億ポンドに制限するとした。 また、保守党からの批判をかわすために、所得税と国民保険料、VATの増税を除外。有権者に対する「税金ロック」として提示した。 さらに、企業を支える政党としての姿勢をアピールするため、法人税の基本税率は引き上げないと約束した。 一方、「資産売却益に課税されるキャピタルゲイン税については同様の公約はしなかったものの、代わりにマニフェスト内の計画に増税は「必要ない」としている。 ■「わずかな増額」 英シンクタンク「財政研究所(IFS)」のポール・ジョンソン所長は、「大きな数字を期待していた人たち向けのマニフェストではない」と指摘。「『コスト』表で約束された公共支出の増加額はごくわずかで、取るに足らないものだ」と述べた。 さらに、国民所得に占める債務の割合を制限する財政ルールに労働党が賛成したのに加え、環境プロジェクトのための借入を予定しているだけに、仮に労働党政権になったとしても、現政権が計画する以上の支出ができるようになる余地は「ない」と、ジョンソン氏は付け加えた。 労働党のマニフェストには、上院改革案に関する新たな詳細も記載されており、80歳以上の上院議員には引退を勧告すると明記されている。しかし、上院を完全に入れ替える計画については、今後協議の対象となる。 一方、経済活性化策の中心に据えている計画制度の見直しや、5年間でイングランドに150万戸の新築住宅を建設するという目標については、新しい詳細は含まれていなかった。 この分野では、研究所やデジタルインフラの承認手続きの簡素化、2022年後半に政府が廃止した地方自治体の住宅需要目標の復活などが、すでに発表されている。 ■労働者権利の計画 労働党は先週、このマニフェストを承認したが、英最大労組ユナイトの支持を得られなかった。ユナイトは、労働者の権利改善計画が縮小され、不十分だと不満を示している。 労働者の権利改善計画は、2021年に初めて発表されたもの。労働者が新しい職に就いた際に、育児休暇や病気休暇の権利を得るための条件となる勤務年数を撤廃する内容が含まれる。また、「合理的に実行可能な」場合に、柔軟な勤務形態を取る権利を強化するとしている。 ただし、「経済全体」にわたる団体交渉の導入を約束していた内容が、成人向け社会福祉分野での公正賃金協定の導入に「まず着手」し、その後に他分野にも拡大するという計画に置き換えられた点が、注目されている。 労働党はかねて、公共サービス用の追加財源を生み出すための責任ある方法は、経済成長だけだと主張。政権を獲得したあかつきには、イギリスを主要7カ国(G7)で最も急成長する経済にしたいとしている。 しかし、政権を獲得した場合には厳しい財政状況を引き継ぐことになるとして、3週間前に選挙が告示されて以来、追加支出の公約はごくわずかしか発表していない。 マニフェスト発表後、他に盛り込みたかった政策をはあるかと尋ねられたサー・キアは、いくつかの給付金受給で規定されている子供2人までの制限の撤廃を上げた。 サー・キアはBBCのクリス・メイソン政治編集長に対し、この方針の撤回を望む「多くの人々」がいることは知っているが、「それを実現する余裕はない」と語った。 (英語記事 Starmer banks on economic growth to 'rebuild Britain')
(c) BBC News