ロシア大統領選を控え「弱さ」露わに…プーチンが、獄死したナワリヌイを「本気で危険視した」2つの理由
<アレクセイ・ナワリヌイ氏は摂氏マイナス30度にもなる北極圏の刑務所に収監されており、2月15日にはビデオ審問に参加していた>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[ロンドン発]ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を厳しく批判し、昨年12月に北極圏ヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移された反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が2月16日獄死した。ロシア国営タス通信は「死因は調査中」(ヤマロ・ネネツ自治管区刑務局)と伝えた。西側やウクライナ首脳からプーチン体制を非難する声が相次いだ。 【動画】飛行機の機内で毒を盛られた直後の苦しむナワリヌイ タス通信によると、ナワリヌイ氏はこの日刑務所で散歩した後、気分が悪くなり、すぐに気を失った。医務班が駆け付け、救急車が呼ばれた。必要な蘇生処置が施されたが、ナワリヌイ氏は回復せず、救急隊員は死亡を宣告した。ナワリヌイ氏は2月13、15日、ウラジーミル地裁による控訴状のビデオ審問に参加しており、体調は極めて良好だった。 露中南部チェリャビンスクに滞在中のプーチンはモスクワのドミトリー・ペスコフ大統領報道官から報告を受けた。ナワリヌイ氏は詐欺罪で2度の執行猶予判決を受け、何度も猶予の条件に反したとして2021年実刑に切り替えられた。22年法廷侮辱罪と選挙運動資金に関する罪で有罪となり、23年には過激派団体を結成した罪で懲役19年が言い渡された。 ベラルーシの反政府系メディア「Nexta(ネクスタ)」はナワリヌイ氏が生前に残した遺言となる動画を配信した。ナワリヌイ氏は「絶対にあきらめてはいけない。もし彼らが私を殺したとしたら、それは私たちがとてつもなく強いことを証明している。この力を利用しなければならない。あきらめて何もしなければ悪が栄えるだけだ」と訴えた。 ■「プーチンがナワリヌイ氏を暗殺したのは間違いない」 カマラ・ハリス米副大統領やアントニー・ブリンケン国務長官が欧州の同盟国を守る米国の決意を改めて表明したミュンヘン安全保障会議で、ナワリヌイ氏の妻ユリアさんは「夫の死が本当ならプーチンと側近、友人、プーチン政権には彼らが祖国と私たちの家族、夫にしたことの責任を取るべきだ。その日はすぐにやってくる」と話した。 英紙フィナンシャル・タイムズのモスクワ支局長マックス・セドン氏はX(旧ツイッター)に「ナワリヌイ氏の生存が最後に確認されたのは15日のビデオ法廷審問。彼は元気そうに見えたが、やせ細った容貌は過酷な環境での健康状態の悪化がいかに常態化していたかを物語る」と投稿した。極寒の刑務所は摂氏マイナス30度と言われる。 ロシア当局の関与が疑われる2億3000万ドルの横領事件を告発し、約1年拘留された挙げ句、09年に獄死したセルゲイ・マグニツキー弁護士に調査を依頼していたビル・ブラウダー氏はXで「プーチンがナワリヌイ氏を暗殺したのは間違いない。それは彼が勇敢にもプーチンに立ち向かったからだ」と断言した。 「ナワリヌイ氏はロシア国民にクレプトクラシー(盗賊政治)と抑圧に代わる選択肢を提供した。だから殺された。彼の死はナワリヌイ氏の家族にとってもロシアにとっても悲劇だ。ロシア当局によるマグニツキー氏の死と同じ完全な隠蔽工作が行われるだろう。彼らが使う言葉は想像がつく。自然死、暴力の兆候なし、予期せぬ死などだ」(ブラウダー氏) ■「ナワリヌイ氏の死はプーチンの首に一生かけられる」 『プーチンの戦争:チェチェンからウクライナまで』の著者でシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティ上級研究員は英紙タイムズのタイムズ・ラジオに出演し「ロシア国内でもプーチンがナワリヌイ氏を直接的あるいは間接的に殺したと考えない人はまずいないだろう。それはプーチンの首に一生かけられる」と語っている。 「ナワリヌイ氏が重要な人物であった理由は2つある。彼が通常の野党の枠組みを超えて手をつなぐ並外れた能力を持っていたことだ。プーチンにとって彼を本当に危険な存在にしたのは生活費を稼げず不満を抱えている工場労働者であろうと、リベラルな中産階級の知識人であろうとプーチン体制に辟易している世論をまとめ上げるカリスマ性や組織力だ」