多摩の伝統校「明星」が生き残りをかけ進学校化にかじ切り、“しまじろう新校長”が行うキャリア教育とは
こころの教育「凝念の時間」
水野 明星学苑には創立以来、「凝念(ぎょうねん)」という、授業の始まる前にするあいさつの形があります。それとは別に、月に1回、校長が話しをする「凝念の時間」があります。これは心の教育ですから、生徒に感じさせることが一番。私は講話のスタイルはとらずに、パワーポイントを使ってプレゼン形式で行います。「心の教育」をテーマに、時には芸術に特化して生徒に語りかけながら、哲学対話みたいなことを行っています。 ――「凝念の時間」とはどのような内容なのでしょう。 水野 6月は、放浪の画家である山下清さんの絵を見せながら、盲目のピアニスト辻井伸行さんの曲をバックに流しました。山下さんは知的障害を負っていたと言われています。視神経と脳の働きは直接関係ありませんが、ハンディキャップのある人の心はどのような状況なのか、みんなで考えようと。こうしたお話をきっかけに興味を抱いて、それを掘り下げることで自己推薦の総合型選抜にチャレンジする基盤となる考える力を育てることを一番に願っています。 会場には1200人収容の児玉九十記念講堂を使います。府中市のどりーむホールに匹敵するくらいここは音響が素晴らしい。PowerPointで25~30枚程度のスライドを作成し、音楽も入れたスライドショーの形にして見せています。絵はチャットGPTに描かせています。20分から25分ほどで終わり、生徒には教室に戻ってから感想を書いてもらい、それを集約して、次の凝念の時間に生かしています。 ――講堂は得てしてあまり活用されませんから、そういう試みはいいことです。 水野 音響を生かすため、早稲田の校歌を聴かせたこともあります。いいんですよ、これが。新型コロナ禍明けの大学入学式がYouTubeにありますが、感動的なんです。「絶対ぼく、早稲田に行きたい」と感想を書いてくれた子が出てきました(笑)。 ――それは早稲田の志願者が増えますね(笑)。校長になってまだ数カ月で講堂を“発見”し、「凝念の時間」も活用されていますね。 水野 2023年度の1年間、副校長をやらせてもらったことが大きいと思います。肌感覚で生徒の感じも分かりましたから。