部下へのパワハラで訓告処分・出向命令を受け「適応障害になった」 …新幹線“車掌”の訴えに裁判所の判断は
裁判所の判断
Xさんの敗訴である。裁判所は「Xさんの受けた心理的負荷は『強』とはいえず、業務上の疾病にあたらないので労災は認められない」旨判断した(厚生労働省が令和5年9月1日付で都道府県労働局長宛てに出した通達により、精神障害による労災認定を受けるためには心理的負荷が『強』と認定される必要がある)。 以下、裁判所が上記判断をした理由を、判決文から一部要約して抜粋する。 ■ 報告書について 会社がXさんに報告書を作成させたことについて、裁判所は「Xさんを指導、教育する必要性が高かった」旨判断している。また「比較的小さな部屋で書かせているが、他の社員からの視線にさらされないようにする目的などがあったと推認できる」としている。 さらに、報告書を作成する状況については「上司と部下という上下関係を感じさせないほどに終始穏やかに行われており、友人同士ともみられるような会話も多かった」と判断している。 作成状況を一部取り上げると、XさんがAさんの名前を漢字で書くことができなかったところ、上司が、引退した野球選手の名前を挙げて説明した。するとXさんは「古いですね。さすが」と発言し、上司も「分かるアンタだって古いんじゃん」と2人で談笑、雑談する場面もあったという。 Xさんは「午後0時ころから午後7時ころまでペットボトルを取り上げられ、食事や休憩をとることもできず、上司が私の意に沿わない書き直しを命じてきた」と主張したが、裁判所は「書面の作成は上記時間の中で3回に分けて行われていた。途中1時間、Xさんは私用のために外出していた。部屋を自由に出入りできていた」旨認定し、Xさんの主張を認めなかった。 ■ 訓告処分、出向命令 裁判所は、「本件暴行は企業秩序を維持する観点からみて、重大な非違行為(就業規則などの服務規定への違反行為)」であるとして、訓告処分、出向命令は必要かつ相当な人事権の行使であり、違法とはいえないと判断した。 ■ 心理的負荷の程度 上記の事実等に照らして、裁判所は「Xさんが受けた心理的負荷は『弱』にとどまる。Xさんに最大限有利に判断したとしても『中』にとどまる」と判断し、Xさんが適応障害を発症したとしても、それは業務上の疾病とはいえないと判示した。 ■ 裁判官の一蹴 Xさんは、「出向命令は明らかな左遷である。私がAさんに暴行を働いたのは、Aさんの勤務態度に問題があったからだ。Aさんが処分されず私だけ一方的に処分を受けたことに大きな衝撃を受けた」と主張。しかし裁判所は「今回の出向命令に問題はない。また、Xさんは一方的にAさんへ暴行を働いている。Aさんの勤務態度に問題があったとしても暴行が正当化されるものではなく、一連の経緯をみても、Aさんに処分されるべき理由があるとまではいえない」と一蹴している。 判決文を読むと、会社はXさんに報告書や反省文の作成を指示する際、暴言などを吐かず、非常に粛々と行っていたと推測できる。叱責(しっせき)にともない会社が従業員へ一定のストレスを与えることは避けられず、裁判になった場合は前述した厚生労働省の通達に照らして、心理的負荷が『強』かどうかが争われることとなる。 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡