【国際医療福祉大学大学院　医療福祉経営専攻　教授　石山麗子】 　厚生労働省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」の4回目が9月20日、開催された。検討会の構成メンバーでもある筆者としては、そろそろ終盤を意識するようになってきた。同様の検討会は過去にある。2012年に開催された「介護支援専門員（ケアマネジャー）の資質向上と今後のあり方に関する検討会」だ。ここでは7回の会合を踏まえて、翌13年に議論の中間的な整理（以下「中間のまとめ」）が取りまとめられた。それを踏まえると、今回もそろそろ終盤に近い。中間のまとめが出された場合どう考えればよいか。出された意見に対する賛否にとらわれていると見失ってしまうことがある。そうならないよう、今回の検討会では語られていない前提となる3点を本稿で示す。特に3点目は、現時点で書いて良いか筆を止めたが、重要なことなので思い切って書くことにした。 1つ目は、検討会の進め方である。今回の検討会は22年12月にとりまとめられた社会保障審議会・介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」を踏まえて設置された。本検討会の論点は、今日的課題に焦点化されているため、スピーディーに進められるというメリットがある。 　別な方法があるとするなら、過去の検証に基づき将来を考える進め方である。現在のケアマネジメントとケアマネジャーをめぐる法改正や施策の多くは、13年の中間のまとめに沿って進められてきた。今回の検討会は“第2弾”に該当するので、過去からの一連の流れを検証し、将来を検討するという方法もあった。前回の中間のまとめと実行された事項を照合すると、実現されたこととそうでないことが分かるはずだ。 その視点からすると、▽居宅介護支援事業者の指定権限の市町村への移譲▽地域ケア会議の機能強化▽介護支援専門員受験資格の見直し▽資格の更新制や法定研修－などが実現したことである。 　反対に、現時点で実現されていないこととして、▽ケアマネジメントの質の評価（プロセス評価・アウトカム評価）に向けて取り組み、客観的な指標を整えるための基盤となるデータの継続的な収集・集積▽介護保険施設における介護支援専門員に関する課題への対応－などがある。 　２つ目は、今回の検討会で議論されている内容は、ケアマネジメントやケアマネジャー全般に関することではないということである。焦点化されているのは居宅介護支援事業所（一部、地域包括支援センター）についてで、少なくとも第4回までは施設や地域密着型サービスは議論されていない。今後も同じ状況が続くなら、中間のまとめが示された場合、あくまで「居宅介護支援事業所のケアマネジメントに係る諸課題に関する検討の中間まとめ」として認識し確認する必要がある。 　3つ目は、今回の議論の内容、出された意見は「あくまで現行制度を継続するなら」という考え方に基づいている。もし国で議論を重ねて施策を講じても、なお課題が解消されない場合、将来的に居宅介護支援事業所でケアマネジャーがケアマネジメントを中心に行う現行の仕組みをそのまま継続することは難しいと判断される可能性がある。 　介護保険制度がつくられた四半世紀前と今では介護を取り巻く状況は大きく変化した。介護保険制度を多くの人に理解され定着したのはケアマネジャーの功績といえる。しかし、25年前につくられたケアマネジメントの仕組みは今日、ひずみが生じている。質の向上は今もなお課題として指摘され、若年・ミドル層のなりたい職業になりえていない。制度施行後、社会情勢の変化に応じ、十分に対応できていなかったと言わざるをえない。 　こうした語られない前提についても言葉にして互いの認識を確認し、各項目が実現されたとき、どのような将来があるかを想定する視点を持つと、今後の検討会の議論やこれから取りまとめられる中間のまとめは少し違って見えてくるだろう。中間のまとめではパブリックコメントが行われる可能性が高いが、その前に地域の関係者が自由に議論する機会をもつことが望まれる。 石山麗子（いしやま・れいこ） 国際医療福祉大学大学院　医療福祉経営専攻　教授。 博士（医療福祉学）、主任介護支援専門員、社会福祉士。 実践（福祉・介護の現場実践と厚生行政における介護保険制度改正）を経て現職。ケアマネジメントの質の向上を実践・研究・教育の3つの側面から試みている。実践の概略は次の通り。 障害児入所施設、障害者就労支援、高齢者施設、居宅介護支援事業所におけるマネジメントと、シニアケアマネジャーとして140名のケアマネジャーを統括。職能団体では、区・都・全国規模の各組織で常任理事に就任。厚生労働省老健局振興課・介護支援専門官を経て、2018年4月より現職。19年度に日本初のケアマネジメントを専門とした修士課程「自立支援実践ケアマネジメント学」を創設。政府の委員会で委員を複数歴任。ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会委員。