ゼロからの成功、世界大会準優勝のバリスタが語るコーヒー論と地方移住
東京でもなく、名古屋でもなく、福岡に移住した理由「福岡には独自のスタイル、個性があった」
── もともと、コーヒーショップをやりたいと思っていたのですか いえ、福岡に移住したいという思いが先でした。大学卒業まで愛知県以外に住んだことがなくて、卒業後はどこかでゼロから何か始めたいと思っていて。全国色々見て回った時に福岡がいいなと思ったんです。特にこれをやるぞ、というのも決めないまま、友人と2人で大学卒業後に移住しました。周りが就職活動していた時も移住すると決めていたので何もしてなくて、周りに驚かれました。 ── なぜそんなに福岡に惹かれたのですか 福岡には独自のカルチャーやスタイルを感じたんです。地方都市だと東京のマネっていうか東京にあるものをそのまま持ってこようという発想になりがちだと思うんですけど、福岡にはハコモノじゃなくて路面店が多かったり、ファッション雑誌をみても他の地域と比べてちょっと違って個性を強く出していたり。福岡のカフェ本をもらってカフェ巡りをした時も、すごくおしゃれだなって思って憧れました。
── 福岡がおしゃれでかっこいい、という感覚だったんですね。移住してからの生活は? 最初はイタリアンレストランで料理人を目指してアルバイトしていたんですが、向いてないなと思って、カフェのアルバイトに変えたんです。そこで本当においしいコーヒーに出会ったのが人生の転機になりました。 それまでもコーヒーやカフェは大好きで、カフェめぐりもしていましたが、あくまでもカフェというスタイルに憧れていただけで、おいしくないコーヒーばかり飲んでいたんです。でもアルバイトをしていた店はトップクラスの品質のコーヒー「スペシャリティコーヒー」を出す店でした。ある日、店のみんなでコーヒーを飲み比べた時、自分が一番おいしいと思って選んだコーヒーが市販のコーヒーだったんです。確かに他のコーヒーと比べてすっきりもしていないし、エグみもある。何杯も飲みたくない味なのに、これをコーヒーだと思っていたんだと愕然としました。他のコーヒーをよくよく味わってみると透明感があって、フルーツの味がして、お茶のように飲める。それまでの、コーヒーの概念「男が我慢して1日1杯飲むもの」っていうのが、がらっと変わりました。 24歳ぐらいで本当にトップクラスの品質のコーヒーを飲める環境ってあまりないと思います。若くしてトップクラスのワインやお寿司に出会ったような感覚だったと思いますね。ビジネスにするならこれしかないと思い立ちました。福岡に一緒に移住した友人に「このままフリーターで終わるのか?勝負に出ようぜ」と声をかけ、2008年4月に移動販売車でのコーヒーの販売を始めました。それがREC COFFEEの始まりです。 ── 商売を始めた訳ですが勝機はあったのですか? 福岡市の薬院という場所で美容室の駐車場を借りて、基本的に移動はしないで、ずっとその場所で営業しました。品質とサービスには100%の自信があったので、店の先行きはあまり心配していませんでした。2年半移動販売車の形で営業し続けたことで、だいぶ口コミでお客さんが来てくれるようになり、2010年には初めて薬院に店舗を持つことができました。今は、薬院の店舗に加え、県庁東店を出店し、今年4月には博多駅のマルイにも新店舗がオープンしました。 もちろん失敗しないように色々やってきたつもりですが、福岡だったから成功できた部分は大きいですね。というのも、福岡の人は本物を見る力があるし、認めてくれたものにはしっかりお金を出してくれます。値段や品質、接客など、とても厳しく見られるので、東京みたいに1杯1000円のコーヒーがあんまりおいしくなくても売れる、なんてことはないです。実際、おしゃれだけどおいしくないコーヒーのお店はなくなっていますし。本物だけがしっかり残るので、自分が品質の高いものを出していれば、必ず見てくれる人がいると思えたんです。独自のスタイルがある街だなと思って移住した時の直感は間違っていなかったなと思っています。