【震災・原発事故13年】福島県双葉の東日本大震災・原子力災害伝承館 収蔵資料を海外で初展示
福島県双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館は、フランス・モンベリアル市の科学博物館で開催中の企画展で震災関連の資料を展示する。海外での展示は初めて。今月から来年8月末にかけ、伝承館が所蔵する約50点を提供し、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生直後の混乱や復興へと歩みを進める住民の姿を紹介する。震災と原発事故の発生から13年余りが経過し、記憶の風化が懸念される中、科学的事実に基づく福島県の正確な情報や教訓を世界に発信する。 フランス政府が主催する文化振興イベントの一環で現地の科学博物館「サイエンスパビリオン」が開催する企画展に出展する。福島県の教訓を国外に発信し、防災・減災に役立ててもらおうと企画した。ともに長崎大原爆後障害医療研究所に所属する伝承館の高村昇館長と国際放射線防護委員会(ICRP)前副委員長で現地の科学博物館館長のジャック・ロシャール氏が協力し、実現した。 テーマは「おっと!エラーの中心で」。研究や創造、学習の過程で失敗は不可欠で、参加者が失敗から学び、より良い結果を導くきっかけにつなげてもらう狙い。福島県のブースでは、地震発生から津波、原発事故、住民の避難、除染や帰還など複合災害から復興へと歩む福島県の姿を時系列で紹介する。地震発生時刻で止まった時計やヨウ素剤、双葉町にあった原子力推進に関する広報看板「原子力明るい未来のエネルギー」の写真パネル、双葉ダルマなどを展示する。津波の映像を提供する他、12月には語り部を現地に派遣し、被災経験や福島県の現状を語ってもらう。輸送費や税関の制限で提供できる資料が限られる中、震災、原発事故の現状をどう伝えるか関係者が知恵を絞った。
制作に携わった伝承館の瀬戸真之学芸員は「原発事故のメカニズムだけでなく、複合災害に見舞われた人々に焦点を当てた。福島県の複合災害の記憶を世界各国の教訓として伝えたい」と語る。 県は今後も国外での記憶の伝承に力を入れていく方針。県生涯学習課の鈴木淳課長は「原子力をエネルギーとして使う国が福島の教訓を学び、生かしてほしい」と願っている。 ■展示実現に協力ロシャール氏 「福島知る機会に」 ジャック・ロシャール氏は福島民報社のインタビューに応じ「幅広い世代に福島の正確な情報を伝える必要がある。現状や復興に向けた人々の歩みを紹介したい」と狙いを語った。 ―展示の目的は。 「フランスは政治や経済などさまざまな問題に直面している。福島の原子力災害への関心は低い。福島の復興の歩みについて知る機会はほとんどなく、『3・11』や処理水の海洋放出が始まった時は福島の状況が大げさに報道された。フランス人の多くは福島の原発事故に誤った認識を持ち、福島に行くのは危険だと考えている。覆すには被災地で科学や文化などの会議を開催するのが最も効果的だが、参加者が限られてしまう。若者や一般人が福島を知る機会をつくり、災害や復興の歩みを伝える必要がある」
―企画展のテーマである「エラー」について、日本では失敗を許容しない風潮がある。 「私たちはミスをする。経験から学ぶことは人間のあるべき行動で、良い経験も悪い経験も子どもに伝えることが大切だ。(双葉町の)伝承館は事故の記憶を伝え、経験から学ぶ視点で展示やプロジェクトが行われており、良い見本となっている」