旬を先取りしていた『古畑任三郎』 「話題作り」にとどまらない“刺激的”なキャスティングとは? ドラマ識者が解説
■さんま、鶴瓶、小堺、堺ら“お茶の間タレント”も演技で存在感
役者一本というより、どちらかと言えば、バラエティや司会などで広く親しまれる「お茶の間タレント」イメージの強い面々も多く登場した。 お笑い界の代表で、好感度上位の明石家さんま。タモリの『笑っていいとも!』レギュラー陣だった笑福亭鶴瓶。1時の『ライオンのごきげんよう』の司会でお昼の顔だった小堺一機。正月の風物詩『かくし芸大会』でおなじみの堺正章。人気を博したグルメバラエティ『料理の鉄人』の顔の鹿賀丈史…。 普段、テレビで親しんでいる有名タレントが、古畑任三郎とほぼ「1対1」の濃厚な〈芝居〉を見せる。日頃見ているのとは「ひと味違う真剣な役者の顔」、そこからは、その人が“テレビで人気者たる理由”までが、当て書きの脚本/ハマり役を通じて浮き彫りになる感じさえあってダイナミックだった。 テレビのあらゆる人気者も、古畑の前では降参していく。その辺りの“痛快”ぶり。またイチローなどの本人役が分かりやすいように、どこか「フィクションだけれど、現実とリンクする」構成から感じるジャンル横断的な“深み”も、他のドラマにない面白味だった。 多様なゲストを擁するドラマでは『世にも奇妙な物語』等もあるが、この作品は、役と世界観を単に作るという易しいことではない。「古畑任三郎=田村正和」という不動の相手(演技)を前に、いかに個性が拮抗し得るかの闘い、個性の化学反応の場。そこでいつも見慣れているタレントが、全く新しい形で“個性の奥”を垣間見せる。巧みなトリックや展開のかたわら、そうした新境地と再発見の体験が、オールスター戦風に広がるのが刺激的だった。 人物以外でも、ファイナルシリーズラストの松嶋菜々子演じるドラマ脚本家をはじめ、超能力(オカルト)番組、クイズ番組、さらには『サザエさん』の放送を使った演出など、テレビ番組自体のモチーフも目立った。さらには、SP回のイチローや(今回の再放送からは外れたが)SMAPの本人役というニクい演出起用。(またこれは偶然だとしても)唐沢寿明と山口智子というワイドショーを賑わせたビッグカップルの夫妻そろっての登場。時代はネット社会になりきる前の「テレビの時代」。そこにあった「テレビ的な面白さ・刺激」をギュッと梱包したような趣も懐かしく、見応えがあった。 『古畑任三郎』は、ゲストそれぞれの「役者としての顔」をいま一度、あるいは、よりいっそう引き出して輝かせる“舞台”だった。確かに今のドラマでも、注目の芸人やモデルなどの抜擢を時々目にする。でも多くの場合、どこか「話題作り」を狙っている感が否めない(結果的に新人発掘へつながることはあってもだ)。昔以上に「俳優/タレント」という住み分けが、絶対ではなくなった現代。タレント陣の、役者という“別の顔”を観るのは、過去を知っている人にも、そうでない人にも刺激的なもの。芝居が一級の隠れた役者をもっとドラマで観たい。