旬を先取りしていた『古畑任三郎』 「話題作り」にとどまらない“刺激的”なキャスティングとは? ドラマ識者が解説
フジテレビで再放送された『古畑任三郎』は、田村正和さん演じる主人公・古畑が難解なトリックを見破るさまが見どころだったが、毎話登場する犯人=豪華ゲストも注目されていた。トレンドを先取りした巧みなキャスティングについて、ポップカルチャー研究者の柿谷浩一氏(早稲田大学招聘研究員)に解説してもらった。 【場面カット】鈴木保奈美が出演した「ニューヨークでの出来事」 ■流行をピンポイントで押さえていた『古畑任三郎』 『古畑任三郎』をまとめて見返すと、作品の持っていた“熱”、とりわけ“時代を取りこむパワー”を改めて実感した。田村正和にしかできない個性的なキャラ、精巧なミステリー仕掛け、三谷幸喜らしい絶妙な喜劇色…。魅力を挙げればキリがないが、何と言っても「ゲストの豪華さ」が肝だった。 人気の若手・中堅から、円熟したベテランまで。毎回の犯人役は芸歴・年齢だけでなく、ジャンルもドラマや映画にとどまらず、歌舞伎やミュージカル、演劇の舞台など、多彩なキャスティングで圧倒した。そんな顔ぶれのなかに、放送当時の“テレビの旬”がしっかり詰まっていたのが特色。印象的なのは「当時のドラマといえば…」という流行をピンポイントで押さえていた点だ。 例えばシーズン1・2は、それぞれ放送が1994年と1996年。トレンディドラマの熱気と余韻のなか、月9のラブストーリー人気にいっそう拍車がかかる時期だ。その流れをすくうように、『東京ラブストーリー』(91年)で一躍有名になり“トレンディドラマの女王”の異名をとった鈴木保奈美や、“連ドラの女王”として90年代のドラマ女優のトップを走った山口智子など、当時のドラマを牽引した旬のスターたちが迎えられ、劇に光を添えた。 観たい役者がきっちり出ていた。その象徴とも言えるのが木村拓哉だ。脇役ながら松たか子の出演(EPISODE21「魔術師の選択」新人マジシャン役)とともに、その起用はエポックメーキングのようにさえ見える。木村は既にアイドルとして、また俳優としても『あすなろ白書』(93年)から人気と認知度はあったものの、キムタクブームの爆発は『ロングバケーション』(96年)、『ラブジェネレーション』(97年)から。松の本格的ブレイクも、この2作がきっかけだ。 出演はそれに先駆けた1996年1月(木村)と2月(松)。わずかながら古畑の方が早く、これから来るトレンドを先取りしている感じでドキリとする。当時の視聴者目線でいえば、今まさにブームを迎えつつある役者のうまみを最高の鮮度で愉しめた証だ。