イチローを基本年俸約8000万円で契約したマリナーズの算盤勘定
そもそも、今シーズンは、どれだけ打席に立てるのだろう。 400打席のクリアが満額条件だが、昨シーズンは215打席だった。ちなみにメジャーのシーズン最多安打記録を打ち立てた2004年がキャリアハイで762打席である。 ギャメルの復帰は、4月下旬と見られている。それまで、スコット・サービス監督は、「週に4~5回は、イチローに先発してもらう」と、話した。しかし、ギャメルが復帰すればどうなるか。ア・リーグは指名打者制度を採用しているため、マーリンズ時代とは違いイチローの代打の機会も限られる。スタメン出場が週1回程度になれば、打席数は伸びない。 仮に4月は20試合に出場するとする。4打席として80打席。5月以降は、先発が月に4~5回として16~20打席。9月まで、そのペースだとすると最大で100打席。4月の80打席を合わせても180打席ほどになる。 これでは、出来高も20万ドル(約2100万円)で計95万ドル(約1億円)にとどまり、その額でイチローを利用して、何倍ものリターンを得ようとしているなら、この契約の裏にあるのは、そこが第一義なのかと疑いたくもなるが、マリナーズも、そこを否定しないだろう。 ただし、それは外野陣がケガをしない、あるいはレギュラーが想定通りに出場している場合だ。 マーリンズでイチローと共にプレーしていたディー・ゴードン(29)に関してはケガに強いが、外野コンバート初年度。未知数な部分はある。出遅れているミッチ・ハニガー(27)は昨年4月の終わりにも脇腹を痛めて1ヶ月以上戦列を離れた。ギャメルの身体能力は高いが、外野での様々な判断能力に欠け、マリナーズは一塁へのコンバートも検討したほど。守備の評価は微妙だ。 ハニガーもギャメルも、昨季初めて、レギュラーに定着したに過ぎない。数字が悪くても、それでも、将来を見据え、イチローよりも優先して起用されるはずだが、彼らのレギュラーが100%保証されているわけではない。そこでイチローが結果を残していれば、例えば、チームがプレイオフ争いをしているとしたら、若い選手の成長を待てるだろうか。 いずれにしてもマリナーズは、ギャメルの故障があったからこそ、イチロー獲得を決めた。ギャメルが戻ってくれば、イチローは控えに回る。そこは既定路線。しかし、今のマリナーズの外野陣は、実績というより、不確かな伸びしろに頼っているところがある。レギュラーが完全に固定されていたマーリンズとは状況がまるで異なり、案外、イチローの出場機会は増えるのかもしれない。 ボッグス氏は、「イチローは、今のチームにフィットする」と話したが、裏ではしたたかな計算が働いているはずだ。 ところで会見でイチローは、いつからオープン戦に出られるのか? と聞かれて、 こう言っている。 「いつでも、大丈夫です」 おそらく今日(日本時間9日)からでも ── 。 そんなところにも、44歳とギャメルらとの差が透けた。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)