社説:世界と日本 多国間協調の外交強めたい
「ロシアの侵略が始まって約2年間で約2億トンの二酸化炭素(CO2)が排出された」。昨年11月、国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)で開かれた関連イベントで、ウクライナの環境保護・天然資源相は語った。 オランダやベルギーの年間排出に相当する。戦争が最大の環境破壊であることを改めて突きつける。 戦火が続くパレスチナ自治区ガザも同様だ。イスラエルは300超の戦闘機を空爆に投入し、武器弾薬を米軍の大型輸送機が補給し続けている。排出されるCO2はイスラエル全体の半分近くを占めると指摘される。 ガザ側の死者は4万5千人を超えて、人道危機が極まる。大国の身勝手さに国際社会は結束して戦火を止められず、世界の持続性すら危うくしている。 こうした中で、今月20日、「米国第一主義」を掲げてトランプ氏が米大統領に復帰する。 1期目では、予測不能な政策運営もベテランの高官らが「ブレーキ役」を果たしたが、復権にあたっては忠誠を誓う側近で固める。なりふり構わず自国の利益最大化を目指す超大国に、日本をはじめ各国はどう向き合うか。 ロシアのウクライナ侵略については、早期の停戦に向けて「就任前に決着させる」と豪語する。ウクライナ支援の負担には後ろ向きで、現状のロシア支配地域の受け入れをウクライナに迫るとの見方がある。 国際法違反の力による現状変更を認めることは、法の支配による国際秩序の形骸化と米国のさらなる信用低下を招くだけではないか。 トランプ氏は1期目で、在イスラエル米大使館を、パレスチナと帰属が争われているエルサレムに移した。 イスラエル寄りのトランプ氏の復権は、ネタニヤフ政権のガザや周辺国への強硬な姿勢を後押しし、さらに中東全体を不安定化させかねない。 欧州でも、物価高対策や移民政策への不満から昨秋以降、独仏で連立政権が倒れるなど、政治が不安定になっている。 日本は日米同盟に偏重するばかりでなく、多国間協調を強める独自性の発揮が求められる。 中国は米新政権との摩擦対策や景気回復に向け、日本との関係を強化する構えで、日本人への短期滞在ビザの発給条件を緩和した。 日本側は邦人の安全確保を強く求めつつ、重層的な対話拡大でアジアの緊張緩和と地域の安定化を前進させたい。 その点で、関係強化が進んでいた韓国の政権流動化は大きな懸念材料といえよう。 平和と人権、気候変動対策をはじめ、世界の課題解決に向けて貢献する日本の主体的な外交力が問われている。