トランプ氏、「怒り」力に 物価・移民問題、突破力に期待 強権化の危険に勝る・米大統領選〔深層探訪〕
米大統領選でトランプ前大統領が歴史的な返り咲きを果たした。大接戦が見込まれた選挙は、ふたを開ければ七つの激戦州全てでトランプ氏が優位に立つ想定外の展開。長引く物価高と不法移民の急増に直面した有権者のバイデン政権への怒りは大きなうねりとなり、トランプ氏の「突破力」への期待を高めた。だが、大衆の支持をバックに強権を求める同氏の姿勢は、危うさをはらむ。 【写真】大統領選の結果を受けて歓喜するトランプ氏の支持者 ◇中間層の逆襲 「私たちは最も大きく、広く、団結した連合を築いた」。トランプ氏は6日未明の勝利演説で、労働組合員や人種的少数派(マイノリティー)、ムスリム(イスラム教徒)・アラブ系といった従来、民主党の支持基盤だった有権者グループの間で支持を広げたと誇った。 米メディアの出口調査によると、投票の際に最も重視した項目では、回答者全体の31%が経済を挙げた。回答者の66%は経済を「良くない」もしくは「悪い」と答えた。 これに対し、ハリス副大統領が終盤戦で女性をターゲットに訴えた「人工妊娠中絶(の権利擁護)」を重視するとの回答は、14%にとどまった。民主党は戦略を誤った形だ。 同じ調査では、年収3万~10万ドルの中間層がトランプ氏支持に回ったことも判明。最大の激戦地となった東部ペンシルベニア州ジョンズタウンに住む機械工ビル・キャロルさん(50)は、「私たちは抜本的変化を求めている」と述べ、経済面での現状打破の希望をトランプ氏に託した。 ◇支持層再編 今回トランプ氏への支持に大きく傾いたのが、ヒスパニック系有権者だ。2020年大統領選でバイデン大統領は、ヒスパニック系有権者の間でトランプ氏を33ポイント上回る支持を得たが、ハリス氏はその差を8ポイントに縮められた。近年急増し、多くが肉体労働に従事しているヒスパニック系は、白人より収入が低く、インフレの直撃を受けた。さらに寛容な移民受け入れ政策で押し寄せた新規移民が、旧移民の生活を圧迫した。 民主党がより都市型化し、裕福で高学歴な有権者向けの政党へと変貌する一方で、トランプ氏の登場後に共和党は地方や非大卒、労働者階級の市民の支持を集めるようになった。今回の選挙は、こうした支持層再編の傾向をはっきりと裏付けた。 ◇独裁の誘惑 ハリス氏は選挙戦で「これまで以上に(トランプ氏の大統領就任に伴う)危険は大きい」と訴えてきた。連邦最高裁が今年7月、大統領在職中の「公的行為」に対する不起訴特権を認めたことで、トランプ氏が意のままに権力を振るうとの懸念は広がっている。政権1期目でトランプ氏を支えた高官たちは、トランプ氏を「ファシスト」(ケリー元大統領首席補佐官)、「独裁者もどき」(ミリー前統合参謀本部議長)と呼び、復権阻止へ異例の警告を発した。 「米国はわれわれにかつてない強権を与えた」。こう語ったトランプ氏が2期目の切符を際限なき権力集中と捉えているとすれば、自ら呼び掛けた「分断を過去のものとする」という目標の達成は不可能だ。(ワシントン時事)