山﨑賢人主演で話題『ゴールデンカムイ』の世界を深掘りする1冊。コミックスのカバーに書かれた謎の言葉の意味とは?【書評】
北海道や樺太の大自然、アイヌの埋蔵金、網走監獄の囚人たち……さまざまな魅力的要素が絡み合い、人気を博している『ゴールデンカムイ』。マンガ原作は2022年に完結したが、アニメ、山﨑賢人主演の実写映画や連続ドラマと、さらに大きな話題となっている。
『ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化(集英社新書)』(中川裕:著、野田サトル:イラスト/集英社)は、原作のさまざまなシーンを参照しながらアイヌ文化を解説している一冊だ。作品が人気になる中で、「アイヌ民族の文化や歴史を美化しすぎている」といった声も上がったとされている本作。たしかに、アイヌ民族が差別や偏見などと闘ってきた歴史の描写は作中になく、「カッコいいアイヌ」が描かれた物語と言えるだろう。とはいえ、本書を読めば、原作者がいかに真摯にアイヌ文化と向き合い、取材や調査を重ねた上でこの作品を描いたかがわかるだろう。 そして、この作品によって、多くの人がアイヌ文化への興味を持つことになったのは疑いない。私がこの作品にハマったのも、アイヌ文化の興味深さ、とりわけアイヌの食文化や生命に対する考え方などに触れられたことがきっかけだった。
本書には、知らなければ気づかない、うっかり見逃してしまうようなポイントの解説も多く、読めば『ゴールデンカムイ』の世界をより深く知ることができること間違いなしの一冊となっている。例えば、アイヌの家の中での上座・下座はどういった配置となっているか、インカラマッの占いに使われていた動物の骨はなぜ下顎のものなのか、などの細かい部分は、マンガを読むだけではわからない。本書に書かれている知識を持ってから原作を読むことで、リアリティのあるアイヌ文化を丁寧に描いていることに気づくことができるわけだ。 また、作中では登場しないが、この作品にとって欠かせないのが、31巻までの全てのコミックスのカバーに書かれている「カント オロワ ヤク サク ノ アランケプ シネプ カ イサム」というフレーズだ。それについても本書では下記のように触れている。 カムイたちはそれぞれに目的があって人間の世界にやって来ます。そのことが、コミックスのカバー袖にいつも書いてある、カント オロワ ヤク サク ノ アランケプ シネプ カ イサム「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」という言葉に集約されています。このヤク「役目」には、実にいろいろなものが含まれます。 (p.33~34より引用) そこからシマフクロウなどの野生動物が持つ「ヤク」についての解説が始まる。この「ヤク」も『ゴールデンカムイ』という作品を理解するのに重要な単語なのではないかと思う。アイヌというと「自然と共に生きる人たち」というイメージが強く、物語の最初期にも「弱い奴は食われる」というアシㇼパの言葉があり、まさに「弱肉強食」を地でいく文化だろう。