【衆院選2024】金融市場をざわつかせる立憲民主党のインフレ目標「0%超」、どう読み解くべきか?
■ YCCに象徴される無理筋な政権運営の遠因 この「できるだけ早期に」という概念が退くに退けない日銀の状況を創り出し、イールドカーブ・コントロール(YCC)に象徴される無理筋な政策運営の遠因になったのは間違いない。 このアコードが、黒田体制の誕生とともに「2年間でマネタリーベースを2倍にしてインフレ率を2%にする」という期待(というより誤解)に働きかける政策運営につながっていくのである。 しかし、そもそも物価目標達成までのスピード感を盛り込む事例は海外にはない。この点、それが「0%超」という表現かどうかはさておき、野田代表の言うように「デフレ脱却に向けて柔軟性があった方がいい」のは間違いない。 そもそも、過去2年以上にわたって消費者物価指数(CPI、総合ベース)が2%以上で推移しているのに(図表(1))、いまだにデフレ脱却が認められておらず、利上げペースも緩慢なのだから、実際のところ、日本のインフレ目標は相当の柔軟性をはらんでいる。そうであれば適切な表現に変えた方が良い。 【図表(1)】
■ 複雑怪奇なゼロ金利政策とYCCが生まれた日本ならではの事情 通常、物価目標は「中長期的に」実現されていればよしとするものだ。 例えば、ECB(欧州中央銀行)はこれを「over the midterm」と表現しているが、具体的にどれほどの期間なのかは分からない。期間の透明性を追及しても政策運営に無理を来すだけであるため、明文化する意味はない。 そもそも、現在はグローバルスタンダードとなっているインフレ目標の数値「2%」も厳格な理論に基づいたものではないのだから、それを実現するための期間を厳格に区切ることに意味は見出しにくい。 よく知られているように、「2%」という数字はかつて大幅なインフレに苦しんでいたニュージーランドが設定したものである。具体的に同国議会は1989年12月、ニュージーランド準備銀行法を成立させる中で「0~2%」を目標値として設定した。 その後、これを契機として世界的に「2%」が採用されるようになるが、端的には「皆が2%で設定しているから」というのが偽らざる実情である。 しかし、日本以外で「2%」のインフレ目標を採用した国々に共通しているのは、高インフレを前提として「2%」へ抑制するという話であって、低インフレを前提として「2%」へ押し上げるという話ではない。 つまり、デフレ脱却を念頭にインフレを希求してきた日銀とは事情が正反対である。 「2%」に関し、そこへの抑制を謳った中銀では利上げ方向の議論で済むが、押し上げを謳った日銀では利下げ方向の議論が必要になる。前者は青天井だが、後者にはゼロ金利制約(正確には実効ゼロ金利制約、ZLB:Zero Lower Bound)がある。 ZLBに直面した日銀の政策運営がマイナス金利政策やこれに付随するYCCなど、いかに複雑怪奇なものに仕上がり、その出口が困難になっていくのかは多くの説明を要しないだろう。土台、理論的に根拠がない難しい目標を与えられている上に期限まで切られ、ZLBも乗り越えようとした結果が複雑怪奇なゼロ金利政策とYCCである。