巨額公費をつぎ込んだマイナ保険証 医療費削減、DX推進はかなうか
12月2日に健康保険証の新規発行が停止されるのに伴い、マイナ保険証に関する費用対効果の検証という観点が必要だ。 【図解】マイナ保険証あり、なしでどう変わる? 政府は2023年度の補正予算で、マイナ保険証の関連事業として887億円を計上した。ポスターやチラシの全医療機関への配布や、利用率を上げた医療機関への補助などを盛り込んだ。政府は詳細な内訳を公表していないが、マイナ保険証の促進に関する予算はこれだけにとどまらない。 目に見えて削減できそうなのは、紙の健康保険証を発行するコストだ。厚生労働省が23年に示した大まかな試算によると、マイナ保険証の登録率が65~70%なら、印刷費や郵送費の削減で年100億~108億円削減できるという。 政府が将来的に期待するのは、医療費の削減だ。現段階で具体的な試算は公表されていないが、薬剤や診療情報を共有することで、複数の医療機関への通院で生じる薬剤の重複投与や二重検査を減らせる可能性がある。さらには、医療データを個人が特定できないように仮名化した上で、新薬や治療法の開発に向け、大学などの研究機関に提供できるようにする法整備についても議論が始まっている。実際に効果がどの程度表れるかは今後の施策次第といえる。 厚労省幹部は「医療DXの効果は時間をかけて出てくる。当面は(マイナ保険証がなくても保険診療が受けられる)資格確認書を併用しながら、安心して医療が受けられる体制を整えたい。いずれは導入してよかったと言ってもらえるようになるはずだ」と理解を求める。 こうした政府の前のめりな姿勢は、国民に誤ったメッセージとして伝わっている可能性がある。12月の新規発行停止を控え、東京都内のある自治体では、10月のマイナンバーカードの登録申請が前月よりも倍増しているという。担当者は「12月で健康保険証が使えなくなると思っている人がかなり多い。政府が利用促進したいと躍起になっているのは分かるが、間違ったメッセージが伝わるのはどうかと思う」と明かす。 政府は「まだ、マイナ保険証をお持ちでなくても、これまでどおりの医療を、あなたに」との広告を出すなど、10月下旬以降、マイナ保険証が使えない人への対応についての周知に本腰を入れるが、十分に浸透するかは見通せない。 医療情報システム開発センターの山本隆一理事長は「新規発行停止ではなく、併用しながらマイナ保険証を使えば保険料を下げるなど、もっとソフトなやり方があったのではないか」と疑問を投げかける。【松本光樹】