<世論はなぜ呪いの言葉を投げつけるのか>社会が発するべき、次の凶行への連鎖とならないメッセージとは
誰かの心の灯を吹き消さないために
事件発生当時、総統就任を目前に控えていた蔡英文総統は現場に献花におもむき、小燈泡ちゃんにこんなメッセージを寄せている。 「おばちゃんは、あなたの犠牲を絶対に無駄にはしません。この社会には沢山の壊れた穴がある。おばちゃんは全力でそれらを修復するからね」 2016年11月、蔡政府はクレアさんを、被害者・被害者遺族という身分で司法改革会議に招いた。 それから3年が経ち、毎年のように立て続けに台湾で発生していた無差別殺傷事件は、今のところ起こっていない。クレアさんは2018年のインタビューでこうも語っている。 「小燈泡がこの世を去らなければならなかった意味、その肩に乗っていた使命があったと信じています。それについて、何かしら努力を続けていく事が、私たち家族の慰めにもなる」 蔡英文総統が就任したあとの司法改革と、事件の減少を短絡的につなげたいわけではない。ただ、あの時のクレアさんの発言や姿は、台湾社会の多くの人々の心を揺り動かしたと思う。クレアさんが与えてくれたのは、不条理と暴力にまみれたこの世界で、人間とはこんなにも気高く勇敢にいられるのだという「発見」だった。そうしたメッセージは台湾社会の中で生きる無数の人々の心を小さく照らし出し、暴発する寸前の孤独な魂にも、あるいは小さな小さな明かりを灯したかもしれない。 誰もがクレアさんのように振舞えるわけではない。私自身も、もし同じ立場になったときに、そのように行動できる自信は全くない。しかし、当事者ではない人々が、どのように社会にメッセージを発していけば、誰かの心の灯を吹き消さないようにできるのか。事件の犠牲となった小燈泡ちゃん、そしてクレアさんの痛みを無駄にしないように、考え続けていかなければならないと思う。 最後に、台湾で、そして日本で痛ましい事件により亡くなった全ての方のご冥福と、その被害者遺族の方々の平安、そして今後これらのような事件が起こらない事を心より願っています。
栖来ひかり