原子力産業、問題の根源を断罪 旧動燃内部の差別的処遇めぐる裁判で元職員ら一部勝訴
旧「動力炉・核燃料開発事業団」(以下、動燃)の元職員らが2015年7月、個人の思想や信条に着目した不当かつ差別的人事処遇などを受けたとして、動燃を後継する国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、機構)を相手に起こした損害賠償請求訴訟の判決が3月14日にあった。水戸地裁(廣澤諭裁判長)は原告の元職員(当初4人。後に2人追加)について、提訴前3年以内の損害に限定したうえで差別があったと認定。約4700万円を原告の元職員5人に支払うよう命じた(退職が早かった原告1人については賠償請求権の時効を理由に棄却)。
元職員らは突然裁判を起こしたわけではなかった。動燃では1974年に再処理工場内で発生した転落死亡事故をめぐって労働組合がストライキを行なうなど、職員の間からも安全性を求める声が上がっていた。原告らも被曝しないための勉強などを、それぞれ労組を通じて熱心に推進。76年に動燃労組中央執行委員長だった円道正三氏が動燃所在地である茨城県東海村の村議会議員選挙に立候補した際には同氏を応援したほか、内部の不正に抗議したりしたことから、動燃からは「非良識派」として敵視されるようになった。 たとえば本来みなプルトニウム等の放射線を取り扱う技術職だった原告らが枢要業務から外されたり、業務に必要な研修の機会を与えられなかったり、洗濯係などの雑務や、人形峠(岡山県)の事務所に飛ばされたまま定年まで30年前後留め置かれたりもした。職位も一定に据え置かれ昇級も止められ、同期や同学歴の職員との比較で退職時までに約3000万円の賃金格差も発生。2005年には、有志数人がそれぞれ所属部署の部長や課長に不当な処遇を是正するよう要望書を提出したが、機構側は「差別の事実はない」として応じなかった。 ところが13年8月、『原子力ムラの陰謀』が発刊され、高速増殖炉「もんじゅ」での1995年の事故の調査中に亡くなった西村成生さん(当時動燃本社の総務部次長。自殺と報道)の自宅から、当時の動燃が警察や公安と連携のうえで組織的に思想弾圧や差別・選別、懐柔工作等を行なっていた実態を克明に記した資料(西村資料)が大量に発見されたことが明らかに。これを受けた機構の労組は機構に対し差別処遇の是正とそれまでの損害を補償するよう要求。しかし機構が「調査したが差別の事実は見えなかった」と対応しなかったことから裁判が始まった。