ホロライブ運営の下請法違反は氷山の一角 関係者やクリエイターらが語る、VTuber業界の“実態”
2024年10月25日、公正取引委員会(以下、公取委)は、VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバー株式会社の下請法違反について、勧告等を行った事実について発表した。 【写真】幕張メッセで今年開催されたホロライブフェスの様子 この発表によると、カバーはイラストや2Dモデル・3Dモデルの作成を依頼していた下請事業者23名に対し、不当なやり直しを合計243回行ったという。この数字は決して“たまたま”“例外的に”と言えるものではなく、発注先のクリエイターにとって不利な取引が横行していたことを示唆している。 VTuber事業は、演者の姿そのものとなるアバターのデザインから始まり、追加衣装、歌ってみたやオリジナル曲のMV、音楽ライブ、グッズデザインなど、さまざまな制作物が必要になる。「クリエイターなしには成立しない」といっても過言ではないビジネスだ。 当然、カバーは非難の的となった。中には「下請けいじめ」と銘打っての報道、またXでは「(クリエイターの)奴隷化」と強い言葉で非難する声も。カバー叩きが加速する中、一部、筆者がつい目を留めた投稿があった。 ホロライブ所属タレントのデザインを担当したイラストレーター・こうましろ氏のポストである。同氏は連投で本件について発信し、「カバーさんを庇っているわけではなく」としつつ「でもカバーさんはそこらへんちゃんとしてるので正直なんだかなとは思う」「企業の指示書とかちゃんとしてないとこも多い」と複雑な心境を綴った。 下請法に違反したカバーには当然、再発防止義務がある。しかしこうましろ氏の言う通り、界隈に関わる人々に知識がないことも遠因だとしたら、今後第二・第三の「下請けいじめ」が起きてしまうのではないか。 VTuber業界におけるクリエイティブ発注の実態、そして改善の余地を探るため、今回はカバーと実際に取引をした経験があるイラストレーターやモデラー、VTuber事務所の元社員、演者含めほか複数の業界関係者に取材を行い、匿名を条件に証言を得た。 「カバーは本当に仕事がしやすかったから驚いた」「他社の方がひどい」「こんなに大げさなことになると思わなかった」──。取材を重ねる中で見えてきたのは、急成長中のVTuber業界が抱える問題、そしてVTuber業界にとどまらず、クリエイターへの発注業務にかかわる人間であれば、誰もが一度は頭を悩ませたことがあるだろう問題だった。 本調査およびそれをまとめた本稿の目的は、カバーを庇うためではないのはもちろん、誰かを悪者にしたり、糾弾したりすることではない。クリエイターと運営それぞれの立場からの切実でリアルな声を届け、「なぜこうしたことが起きてしまったのか?」「どうすれば今後防ぐことができるのか?」を可能な限りクリアにすることだ。 奇しくも、この11月にはフリーランス新法が施行されたばかりだが、それらに各々が向き合わない限り、結局何らかの形で同じことがどこかで繰り返されるだろう。 実際に行われていたクリエイティブ制作や、日々の対応に追われる発注現場に関する証言を参考に、業界全体の実態を掘り下げていく。