センバツ甲子園 大分商 反撃及ばず 九回、2点差まで迫るも まさかの幕切れ /大分
19日に開かれた第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第2日第2試合で、大分商は作新学院(栃木)に6―8で惜しくも敗れた。中盤から終盤にかけて粘りの大商野球を見せ、相手にあと一歩まで迫ったが、好機に1本が出なかった。最後まで諦めずに白球を追い、全力で戦った選手たちにアルプススタンドから惜しみない拍手が送られた。【神山恵、喜田奈那】 大分商は六回、先頭の豊田顕(3年)、続く大道蓮(れん)(同)が連打で出塁。更に羽田野颯未(かざみ)(同)の放った打球が甲子園の風に戻されて、右翼手のグラブからこぼれ落ちると無死満塁と好機を広げた。 打席には前の打席で右前打を放った江口飛勇(同)。那賀誠監督(55)から「とにかく長打を打て」と送り出されたといい、相手の初球をはじき返した打球は中前打となり、反撃の口火を切る追加点になった。 「よっしゃ」「やった」と一塁側のアルプスタンドは大歓声に包まれた。選手たちの活躍に豊田の父展之さん(50)は「よくやっている。なんとか逆転してほしい」。江口の父和秀さん(45)は「つないで1点ずつ返して」と願った。 大分商は更に七回1死二、三塁で豊田のフライを二塁手が取り損ねて落とし、1点。続く大道が左前適時打を放ち、この回に2点を加えて1点差にまで迫った。アルプスで見守った野球部の藤田聡副部長は「この展開で良い。運がついています」とうなずいた。 九回は1死二、三塁で、羽田野が目の覚めるような左前適時打を放ち1点。続く江口の右前適時打で1点を返し、反撃ムードに。しかし、丸尾櫂人(3年)の打球を左翼手が好捕し、既に二塁を回っていた一塁走者の江口が帰塁の際に二塁ベースを踏まずに戻ったため、相手のアピールでアウトとなり、試合は終わった。江口は「反省を生かし、変わったところを見せていきたい」と涙ながらに語った。 ◇スタンドから応援のパワー 大分商のアルプススタンドでは、那賀誠監督に指名されて応援団長になった安達匠(3年)ら野球部員による応援団の声が響いた。 児玉迅(じん)(同)ら、投手陣がストライクを取る度にメガホンをたたき、「ナイスボール」と声を上げた。六回に四連続安打などで、チームが追加点を挙げた時には「もっと飛ばしていけ!」と声をからした。 要所で見せるチームの粘り強い戦いに、安達選手は「僕たちの応援のパワーが伝わった」と笑顔だった。【喜田奈那】 ……………………………………………………………………………………………………… ■青春譜 ◇気持ちで作った見せ場 大分商 大道蓮主将(3年) 七回1死一、三塁で打席が巡ってきた。「絶対に点を取る」。気持ちだけで打ったという打球は左前に転がり、相手に1点差に迫る適時打になった。 大分市出身。小学1年の時、ダルビッシュ有投手が米大リーグで活躍する姿に憧れて野球を始めた。テニス選手の両親はテニスを勧めたがやりたいことをやればいいと応援してくれた。所属した軟式野球チームの選手は少なく、小6の時には同級生がいなかった。中学の軟式野球部で思い切り野球をしようと思ったが、今度は新型コロナウイルスの影響で七回までの試合も五回までしかできなかった。 公式戦で一度も勝ったことがないまま大分商に進学。1年生主体で戦う秋の錬成会で優勝し、2022年夏に始動した新チームで主将に選ばれた。グラウンドに小さなゴミがあれば拾い、差し入れがあれば「マネジャー先に選んで」と声を掛ける。練習後は、道具の片付けの確認をしてグラウンドを出るので帰宅はいつも最後だ。 新型コロナによる制限が大幅に緩和され、ほぼ通常通りの開催となった今大会。観客でいっぱいの甲子園球場に立った時、チームメートと守備や打撃などつらい練習を乗り越えてきて良かったと改めて感じた。 この日の試合は、六回にも中前打を放ち、見せ場を作った。試合後に「元気と気力で相手との能力差を補い、競った試合ができた」と力強く語ったが、あふれる涙はこらえきれなかった。【神山恵】