「マーガリンは危険」と思い込む人が知らない真実 日本での「トランス脂肪酸」摂取量は実は少ない
「トランス脂肪酸」を聞いたことがあるでしょうか。これは数ある脂質の中でも「健康に悪い」ことが確実性が高く示されたもので、アメリカではかなり厳密に使用を制限されています。一方、実は日本での制限はアメリカほど厳しくなく、普通に売っているマーガリンは、トランス脂肪酸を含む代表的な商品です。そんなマーガリン、是が非でも避けたほうがよいのでしょうか。ハーバード大学で主に予防医療について研究を行っている医師の浜谷陸太氏が、最新の科学的知見を紹介します。
【東洋経済オンラインで2023年7月19日に公開した記事の再配信です】 ■トランス脂肪酸が健康に悪いのは間違いない アメリカでのトランス脂肪酸の厳密な制限には、歴史があります。1900年初頭より、動物性脂肪(バターなど)は健康に悪い、ということが知られていました。そこで植物から脂肪を作る試みが行われ、最初にショートニングとして商品開発に成功しました。そしてマーガリンが開発され、なんとバターと異なり「冷蔵庫から出してすぐにパンに塗れる」ということが衝撃的だったのでした。
実は1950年ごろより、トランス脂肪酸は健康に悪い(心臓病患者を増やす)のではないか、ということが研究で示唆されてきたのですが、この言説はなかなか広まりませんでした。「植物由来だから健康によいだろう」と考えられたこともあり、このトランス脂肪酸はかなり広まりました。バターなどの動物性脂肪を植物性に変えるよう、専門家がロビー活動していることも見受けられました。 ようやく1990年代となり、トランス脂肪酸が健康に悪いことが科学的に確からしくなり、2000年代にはようやくトランス脂肪酸の含有量表示が義務付けられることになりました。
この頃には、「トランス脂肪酸=健康に悪い」ということが一般にも広く知れ渡り、アメリカの食品からはかなり減っていくこととなりました。現在でも厳密に禁止されているわけではないのですが、事実上ほとんどトランス脂肪酸は使われなくなったのです。 こんなことを聞くと、マーガリンを避けたくなる気持ちもわかります。でももう少し踏み込んでみていきましょう。 ■日本でもほとんどトランス脂肪酸は使われていない 厚生労働省が「無知だから」トランス脂肪酸を(アメリカほど厳密に)制限していないわけではありません。当然熟知していながら、業界とのバランスをとりながら政策決定しています。事実として、日本の食品でのトランス脂肪酸の割合は、今や非常に低いものとなっています。