センバツ高校野球 33年ぶり 学法石川の軌跡/中 苦い経験糧に成長 /福島
◇「あの併殺」で一気に流れ 33年ぶりに春の甲子園への切符をつかんだ学法石川だが、選考資料となる秋季東北地区高校野球大会の戦いぶりは平たんではなかった。県大会準決勝は、昨夏の福島大会で惜敗した聖光学院と再戦したものの、序盤から圧倒されて敗れた。県大会3位で臨んだ東北大会は試合ごとに成長を見せ、2回戦で聖和学園(宮城)、準々決勝で金足農(秋田)と、各県の第1代表を次々と降した。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち その中で、少なくない選手が「あのプレーが大会のキーポイントだった」と挙げるのが、金足農戦での併殺だ。 1点差でリードしていた八回、失策や四球などで、1死一、二塁のピンチを迎えた。マウンド上は捕手も兼ねる1年生の大栄(おおさかえ)利哉。「絶対に抑える」と意気込んではいたが、「苦しい場面だな」とも感じていた。 タイムを取り、伝令でマウンドに走った主将の小宅(おやけ)善叶(よしと)(2年)は、大栄に「気合で抑えろ」と一言。「あれで思いっきり投げる覚悟ができた」と大栄は振り返る。腕を振って直球を投げ込むと、打球は遊撃手の福尾遥真(はるま)(2年)の前に。福尾はきっちりと捕球し、きれいな併殺を完成させた。ピンチを断ち切ったナインは九回、大栄の適時打で1点を加えて試合を決めた。 八回の併殺が特にチームを勇気付けたことには、理由があった。記録員としてベンチにいた伊藤壱太朗(2年)が「1年前に似たような場面があって、ミスが起きていたんです」と打ち明ける。 2022年秋の東北地区大会の準々決勝、能代松陽(秋田)戦。2点差の四回、1死満塁のピンチで、当時は二塁手を務めていた福尾が正面のゴロを後逸し、同点に追いつかれたことがあった。この試合は延長十二回にサヨナラ負けを喫し、甲子園への道が断たれた。 「ミスは仕方がない」とチームの誰からも責められなかったが、福尾自身は「自分のせいで負けた。誰よりも泣いた」と省みる。ショックで一時はまともにゴロが処理できなくなるほどだったという。守備の不調はその冬の猛特訓で乗り越えたといい、今年の大会には「もう二度とミスはしない」と臨んだ。 伊藤は、福尾の素早いプレーを見て、「1年前は失策をした遥真が好プレーを見せた。自分たちは着実に成長できている」と感じたという。福尾も1年上の先輩たちから「1年前のエラーを取り返したな」と祝福されたという。 苦境を乗り越え力強さを増した選手たちが、念願をかなえた。