星組トップスター・礼真琴がパワフルな演技を見せたミュージカル「1789-バスティーユの恋人たち-」
星組によるミュージカル「1789」はフランス革命前夜から人権宣言に至るまでの時代、さまざまな階層の人々が生きる姿を描いた群像劇である。ドーヴ・アチアとアルベール・コーエンにより、フランスで2012年に初演された。 これを宝塚歌劇月組が2015年に日本初演した。潤色・演出を手がけた小池修一郎は、フランス版ではショー的な色彩が強かった本作を、農村出身の青年ロナンとフランス王妃マリー・アントワネットを軸とした人間ドラマに生まれ変わらせた。さらに、2016年、2018年には東宝ミュージカルでも上演が重ねられている。 今回の星組版は、これまでの上演を踏まえて厚みを増し、いくつかの変更も加わって進化を遂げた。星組はパッションの組と言われるが、組の持ち味と作品のメッセージが見事にかけ合わさった舞台となっており、主要キャストたちが歌い上げる楽曲も聞き応え十分だ。 【写真を見る】舞空瞳 星組トップスター・礼真琴が演じるロナンがたくましく、熱い。野生的な色気も感じさせ、オランプが心奪われるのも納得だ。いっぽうのオランプも一途でパワフルで、これまたロナンに興味を惹かれるのも納得である。 トップ娘役がマリー・アントワネットを演じた月組版と異なり、星組版ではトップ娘役の舞空瞳がロナンの恋人オランプを演じている。初演の月組版で気になったロナンとオランプが恋に落ちる経緯の唐突感が薄れて説得力が増した印象を受けるのは、二人の場面が増えたことに加え、トップコンビで見せる息の合った芝居の賜物でもあるだろう。 革命を牽引する三人、ダントン(天華えま)の豪放磊落さとロベスピエール(極美慎)の清廉潔白、そして皆を率いるデムーラン(暁千星)の人徳と、三者三様のキャラクターがしっかり立っている。2017年に上演された雪組公演「ひかりふる路~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~」で彼らのその後の悲劇も知っているだけに、この時点のチームワークがいっそう尊いものに思える。 「マリー・アントワネットは王妃でなく普通の女性として生まれていれば幸せな人生を送れたのかも」とは、よく言われることだが、有沙瞳のアントワネットは「普通の女性」のふんわりとした優しさを表現していた。そんなアントワネットを愛するフェルゼン(天飛華音)は「愛に命を賭ける」姿を示してみせる。 アルトワ伯(瀬央ゆりあ)は、ただならぬ妖気で異世界感を漂わせ、神に成り代わらんとする野心が伝わってくる。だが、彼に仕える手下の三人組は、ちょっと間抜けで笑わせてくれる存在だ。リーダーのラマール(碧海さりお)の一挙一動が微笑ましい。 専科から特別出演の輝月ゆうま演じる貴族将校ペイロールは、まさに「巨大な壁」のような威圧感で、革命派の民衆たちの前に立ちはだかる。 ロナンの妹ソレーヌ(小桜ほのか)は、素朴な田舎娘からパリの娼婦へと転落する。しかし、そこから目覚めて革命に身を投じていく変貌ぶりから、激動の時代を生き抜いていく女性のしたたかさが伝わってくる。 星組版「1789」の凄さは、一人ひとり違う人生を生きている民衆が、革命に向けてそのエネルギーを収束させ、爆発させていく様を描き切っているところではないかと思う。いわば、この作品の真の主人公は民衆であり、その中の一人がロナンということなのかもしれない。 文=中本千晶
HOMINIS