禁忌の豚スープ「肉骨茶」、国民の遺産に イスラム教国のマレーシア、国会で論戦
マレーシア政府が、東南アジアの華人が愛するご当地スープ料理の肉骨茶(バクテー)を「国民の料理遺産」に指定した。ただイスラム教が国教のため、禁忌の豚肉を使う料理の指定に反発も。地元のバクテー店は結束し、多様性を象徴する料理として国際的な知名度向上を目指している。(共同通信=角田隆一) 「クランには200軒以上のバクテー店がある」。発祥の地とされるクランのバクテー店「奇香」のスーザン・タンさん(39)は語る。クアラルンプール郊外の町は人口50万人ほどだが、道行けば朝から営業するバクテー店を見かける。タンさんは有志とバクテーの振興団体「クラン・バクテー公会」を2023年12月に結成した。 バクテーは豚の骨付き肉に中国漢方と東南アジアのスパイスをともに煮込むスープ料理。マレーシアではしょうゆを使いスープが褐色だ。シンガポールではコショウをきかせ、透明に仕上げる。 かつては残り物の骨付き肉を使ったため安価で、中国南部から移民として来た肉体労働者「苦力(クーリー)」向けの滋養のある食事として20世紀前半から発展した。料理名に「茶」が付くが、茶葉は使わない。
経済成長に伴い「貧者の料理から、友人付き合いやビジネスの会合で食べる日常食となった」(タンさん)。 だがマレーシア政府の2月の遺産指定にソーシャルメディアでは「国民食は全ての民族や宗教の信者が食べられるものであるべきだ」と批判が飛び交った。国会でも論戦になり、担当閣僚の責任を問う声も上がった。 元祖を巡り、マレーシアとシンガポールの間や地域で論争もある。公会のメンバーで順成茶骨飯店の経営者ベンジャミン・タンさん(33)は「争うより協力したい。日本のラーメンのようにグローバルな料理にするのが目標だ」と話す。まずは今年、世界中から華人の経営者がマレーシアに集まり開催される世界華商大会で千食以上を振る舞う考えだ。