大切な子や孫をクルマで死なせないために──本当に正しいチャイルドシートの選び方、使い方
9月12日、JAFがチャイルドシートの使用目安を「身長150cm未満」に変更し、話題となった。しかし、ユーザー各々に合ったシートを、正しく使わなければ、もしものときに命を守ることはできない。適切にチャイルドシートを選び、使うためのポイントを、自動車ジャーナリストの加藤久美子氏が解説する。 【画像で確認】身長150cmでも、体格によってシートベルトが掛かる位置は異なる。ベルトが首に掛かる場合はブースターシートを使用すると安心。 TEXT&PHOTO:加藤久美子(KATO Kumiko)新安全基準に完全移行から1年……本当に正しいチャイルドシートの選び方は? 旧基準の“R44”製品は買ってもいい? 日本では2000年4月よりチャイルドシートの法制化がスタートし、6歳未満の子どもを乗車させるときには安全基準に適合した「幼児補助装置」(チャイルドシート)を使うことが義務付けられた。ここでいう安全基準とは(現在は)国連基準【UN/ECE】のことで、長い間R44とR129のダブルスタンダード状態が続いていたが、2023年8月末でR44は全世界で生産と出荷を終了。以降はR129に一本化されている。 チャイルドシートには乳児用(ベビーシート)、幼児用(チャイルドシート)、学童用(ジュニアシート)の3タイプがあるが、年齢ではなく子どもの体格で選ぶことが原則である。 日本は年齢で選ぶ傾向が強いが、それは非常に危険。もちろん、取り付けたいクルマとの適合も確認が必要だ。これはチャイルドシートメーカーの公式サイトや販売店の車種適合表で確認できる。 改めて、R129製品について説明しておこう。生産を終了したR44は体重を目安に、R129は身長を目安に選べるようになっており、側面衝突に対応したR129のほうが圧倒的に衝突安全性が高い。また、R129はシートベルトではなく確実に取り付けできるISO-FIXが基本となる。 ●乳児用シート(後ろ向きのみ) 生後15カ月+身長76cmまでは後ろ向き使用がマスト。骨格が未発達な乳幼児は衝撃を背中側で受けるほうが圧倒的に低リスクだ。 ●幼児用シート(後ろ向き・前向き) 100~105cm頃まで使用。前向きが基本だが、100cm(4~5歳頃)前後までより安全性の高い後ろ向きで使えるタイプもある。 ●学童用シート(前向きのみ) 100~150cmで使用するが、125cmまでは背もたれやヘッドサポートがついたフルバケットタイプの使用が義務付けられている。旧基準のR44製品のなかには背もたれのないブースタータイプやスマートキッドベルトなどのベルトガイド式製品において「3歳、15kgから使用できる」と表示されているものもあるが、安全性を考えればブースターシートは125cmを超えてから使うべきである。 ところで、旧基準の「ECE R44/04」製品は2023年8月末で生産終了となって1年以上経過したが、これらはいつまで使っていいのだろうか? 現在も通販サイトやコストコなどの量販店では旧基準のチャイルドシートやジュニアシートが販売されている。 結論から言うと、ユーザーが使うことに法的な問題ない。しかし、現行基準のR129よりも安全性は落ちるし、なかには説明書や車種適合が確認できない製品もある。「本当にR44基準を満たしているのか?」と疑問に思う製品もある。さらに、なかには海外の製造元が5歳からの使用を推奨しているにもかかわらず、輸入元の判断で日本向け製品には「3歳から使用可」としているものもある。それらの製品はほぼどれも5000円以下で購入できるが、子どもの命と引き換えに安さを求めてしまったことを後悔しないよう、どうか最新の安全基準R129を満たしたISO-FIX固定の製品を正しく使うようお願いしたい。 また、あまり知られていないが実はチャイルドシートにもメーカーが定めた「標準使用期間」がある。製品により異なるが、乳児用で5年、乳幼児用で8年、幼児・学童用で10年となっている。期間を過ぎると、見た目は問題なさそうに見えても、材料の経年劣化により本来の性能が発揮されないおそれがあるため、メーカー各社は使用を控えるよう呼び掛けている。 JAFと警察庁の最新調査結果に注目 チャイルドシートが義務化されて24年が過ぎたが、着用率はどれくらい変化したのだろうか?正しく使用できているのか?JAFと警察庁は合同で2002年より全国各地で使用状況調査を行っているが、9月上旬に最新の調査結果が公表された。これによると義務年齢である0~5歳の平均は78.2%で過去最高。しかし、5歳では4割以上が「不使用」という結果となった。 ミスユース(使い方を間違えているケース)も非常に多い。 乳幼児用ではハーネス関連の使用ミスが大半を占めている。特に多いのがハーネスの締め具合が緩いことだ。 チャイルドシート本体が座席にしっかり固定されていても。子どもの身体を拘束するハーネスがユルユルだと、急ブレーキレベルの衝撃でもハーネスの間をすり抜けて床に転がり落ちて死傷する危険もある。 「こんなにきつくて苦しいのでは?」と思うかもしれないがそれは大人の思い込みだ。指1本入る程度のキツさで締めることが重要。ハーネスが緩い状態で衝突の激しい衝撃を受けると、窓を突き破り車外に放り出される危険もある。 一方、学童用シートのミスユースでもっとも多いのは「体格不適合」(33.7%)である。体格不適合のほとんどは、学童用シートの体格(100cm以上)に達していないのに使用していたか、125cm未満なのに背もたれ無しのブースターシートを使っていたことなどが主な理由だ。 JAFが身長基準を150cmに見直した! 学童用シートはいつまで使用すべきなのか?車両シートベルトはどれくらいの体格から安全に使えるのか? 各業界や団体、海外の基準は以下となっている。 ●自動車メーカー:身長150cm(シートベルトの安全検証は150cmのAF05ダミーを使用しているため) ●警察庁:140cm(神奈川県警のように135cmとしている県警もある) ●JAF:150cm(8月下旬にそれまでの140cmから150cmへの見直しを発表) ●海外:大規模自動車生産国であるドイツ、イタリア、フランス、中国で150cmまで、アメリカは州によって異なるが145~150cmまでの使用を定めている JAFがシートベルトの着用基準身長の見直しを発表したことで世間の関心が高まっているが、140cmと150cmではどれくらいの違いがあるのか? 9月12日に身長が異なる子役を使った実演説明会が開催された。 140cm、145cmでは明らかに肩ベルトが首に掛かっていて、横転などの強い衝撃を受けると肩ベルトで頸動脈を切断する危険がある。 150cmでも子どもの体型(胴が短く脚が長いなど)によっては首に掛かる場合もあり、その際には引き続き学童用シートを使うことが重要だ。 シートベルトの有無にかかわらず、年間1万人以上の小学生が死傷している実態から考えれば、150cmまで学童用シートを正しく使用すれば事故で死傷する小学生は大幅に減るだろう。 ただし、身長の数字だけで区切るのではなく、大切なことは150cmを超えても、肩ベルトが首に掛かったり、おなかに掛かったりしていれば引き続き学童用シートを使用することだ。事故はいつ起こるかわからない。より確実に子どもの命を守る安全性の高いチャイルドシートを正しい状態で使うのは保護者の重要な役目である。
MotorFan編集部