懐かしさと新しさを完璧に融合。『眼差し』に感じる新しい才能
<Mini Column>兄のポエム
オアシスが再結成するという。彼らのことをよく知らない人のために書くと、オアシスの中心メンバーは作詞作曲のギター・ボーカル担当ノエル・ギャラガーと、リードボーカルのリアム・ギャラガーという兄弟である。そしてこの兄弟がとにかく仲が悪い。だから解散したと言っても過言ではないのだけれど、そのバンドがまさかの再結成をしたというのだから世界はもう、大騒ぎである。 私には一歳上の兄がいる。もし仮に、私が兄の書いた歌詞を歌えと言われたら、どうだろう。私たち兄弟は普通に仲が良い方だけれど、それでも兄の書いた歌詞を歌うのは、抵抗がある。彼の心の覗(のぞ)いてはいけない部分を覗くようで、想像しただけで背中がむずがゆくなる。なのに、オアシスは仲の悪い兄が書いた歌詞を、粗暴な弟が一生懸命歌っているのである。そして、曲が売れれば売れるほど、作詞作曲の印税は兄の方だけに入る。私たちには想像し得ない、特別な“思うところ”が、彼らの間に渦巻いているだろうことは想像に易しい。 でも、だからこそ、オアシスは面白いのだと思う。彼らの音楽はもちろん、人間性のすべてをひっくるめて、生き物として魅力的なのだ。私はまだ再結成を信じていない。ツアーが始まるのは来年らしいから、それまでにはどうせ一回くらいは大げんかして、再結成を撤回するのではないだろうか。そして、反省してもう一度再結成し直す、くらいが彼ららしいと思うのだけれど、どうだろう。色々な意味で楽しみである。 ■著者プロフィール いしわたり淳治 作詞家・音楽プロデューサー 1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、オリジナルアルバム7枚、シングル15枚を発表。そのすべての作詞を担当する。2005年のバンド解散後は、作詞家として、Superfly『愛をこめて花束を』、Little Glee Monster『世界はあなたに笑いかけている』、King&Prince『ツキヨミ』他、SMAP、関ジャニ∞、Hey!Say!JUMP、DISH//、矢沢永吉、石川さゆり、TOMMORROW X TOGETHER、EXO、NCT127、JUJU、中島美嘉、上白石萌音、まふまふなど、音楽プロデューサーとして、チャットモンチー、9mm Parabellum bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKY、BURNOUT SYNDROMESなど、ジャンルを問わず数多くのアーティストを手掛ける。現在までに700曲以上の楽曲制作に携わり、数々の映画、ドラマ、アニメの主題歌も制作している。2017年には映画『SING/シング』、2022年には『SING2』の日本語歌詞監修を行い、国内外から高い評価を得る。音楽活動のかたわら、映画・音楽雑誌等での執筆活動も行っている。 著書の短編小説集『うれしい悲鳴をあげてくれ』(筑摩書房)は20万部を刊行、ほかに「次の突き当りをまっすぐ」(筑摩書房)がある。本連載『いしわたり淳治のWORD HUNT』に掲載されたコラムをまとめた書籍『言葉にできない想いは本当にあるのか』(筑摩書房)を発売中。2021年からは新ユニットである「THE BLACKBAND」を結成し、そのメンバーとしても活動中。
朝日新聞社