安保法案で野党が批判する「強行採決」とは? 問題点はどこにあるのか
中身のある議論はできていたのか
これに対して、前衆議院議員の三谷英弘弁護士は、次のように語ります。 「今回の法案は、大きく分けて、自衛権行使、後方支援、領域警備という3つのテーマに分類できると思います。具体的な数字としては11の法案ですが、論点が重なる部分もありますから、全てが個別の法案と考えることは適切ではないでしょう。一方、『安保法案』という1つの法案だというのはさすがに無理があります。議員経験から考えると、審議時間は110時間では十分とはいえず、全体として150時間くらいは必要だったのではないかと思います。」 しかし、単純にここから30~40時間増やして審議すれば解決したのかというと、そうとはいえません。本質的な問題は、“中身のある”審議ができなかったことでした。今回の審議では、「自衛権」の中身を再定義した、維新の党の対案が出てきた事に、大きな価値があったと三谷弁護士は指摘します。 「維新の対案は、今回の法案について、『個別的自衛権』と『集団的自衛権』のどちらで説明するかといった言葉の問題という面もありましたが、『自衛権』の行使をどこまで統制するかということが具体的な論点として上がるきっかけになっていたのです。しかし、この対案が出されたのは、審議も終盤に差し掛かった、7月8日になってからでした。審議の場で法案の理解が深まったのは、この採決前の一週間に過ぎません。維新も、審議終了の間際になってからではなく、もっと早くに対案を出して審議時間を目一杯活用して堂々と議論をするべきでした」 今回は、与党が審議の時間をきちんと取っておらず、適切な答弁をしていないまま「強行採決」に踏み切ったということも、もちろん問題です。しかし、審議が始まった当初から80時間くらいは、野党も「戦争法案」などといったレッテル貼り・印象論に終始し、あまり具体的な議論が出すことができていなかったともいえます。三谷弁護士は、「与党にも猛省を求めたいですが、野党も闘い方が極めて稚拙だったと言わざるを得ません。両者とも強く批判されるべきです。有権者の皆さんも、印象論で賛成か反対かを考えるのではなく、国会の審議がきちんと議論の場になっているかを見定める姿勢を持って欲しい」と言います。 「強行採決」という言葉は否定的なイメージが強く、それ自体に目が行きがちですが、今回の問題の本質は、中身のある実質的な議論が十分にされなかったということに尽きます。採決がなされる瞬間、野党の議員が「自民党 感じ悪いよね」と書かれたプラカードをカメラに向かって掲げる光景は、今回の法案審議を象徴するものとして極めて印象的でした。民主主義は、議論のプロセスを充実させることに意義があるということを、改めて考えさせられます。 (ライター・関田真也)