ピュア・ストレージ幹部が語る、シンプルさ実現の鍵は「洗練されたソフトウェア」
研究開発の基本思想 続いて、最高技術責任者(CTO)のRob Lee氏に研究開発の基本的な考え方について聞いた。同社は古いタイプのハードウェアメーカーではなく、ソフトウェアを重視していると知られているが、CTOとしてソフトウェアとハードウェアの開発のどちらにより重きを置いているのかと質問をしたところ、「Pure Storageの強みはハードウェアとソフトウェアの両方を自社開発しているところにあるが、さらに言えばハードウェアはソフトウェアをサポートするために存在しているのだ。競合がまねできないわれわれ独自の強みは、主にソフトウェアにある」と述べた。 「例えば、高密度大容量のDFMは当社の大きな優位点となっているが、本当に大事なものはDFMの中にはない。真の価値は、DFMを駆動して使いこなすためのソフトウェアにある。その上で、われわれを競合他社から差別化している要素である高信頼性、高可用性、そして長期にわたる『Evergreen』による稼働寿命などは、ハードウェアとソフトウェアを密接に連携させた開発を行っていることで実現している」(Lee氏) 開発投資という観点では「われわれの真の価値に直結するソフトウェアに注目しているといえるが、同時にソフトウェアに見合う優れたハードウェアを開発することにも注意を払う必要がある」との回答だった。 Lee氏は、最高経営責任者(CEO)のGiancarlo氏がテーマとして挙げた「シンプルさ」について「Pure Storage製品は、競合製品とは異なる点が多々ある。高いデータ圧縮効率や電力効率、破壊的な影響なしにアップデートを実行して継続的に運用し続けられるEvergreenなど、われわれのソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって実現され、ユーザーには使いやすさを提供している。使いやすいシンプルな製品を作ることは全く簡単なことではない。むしろ極めて困難な挑戦であり、ユーザーが体感するシンプルさや使いやすさは高度に洗練されたソフトウェアの力によって実現されるのだ」と説明した。 今後の技術開発の方向性については、「コアプラットフォームのさらなる改善」「クラウドオペレーティングモデルの進化発展」「モダンアプリケーションへの移行強化」の3点に取り組む方針が示された。追加で、2023年の「HDDの新規販売は2028年までに終わる」という予測について、その後HDDメーカーが商品化を成功させた熱補助型磁気記録(Heat-Assisted Magnetic Recording:HAMR)の投入によってずれ込む可能性があるかを尋ねてみたところ、その答えは明確に「No」だった。 Lee氏はHAMRについて「根本的な革新とまではいえないだろう。HDDの技術革新は、単純化してしまえば『同じ面積のディスクからより多くのビットを引き出すための工夫』であり、とっくに限界に達しているものをさらに絞り出す方法を模索している状況だ」と説明した。 「最大の問題は、こうした工夫は高速化にはつながらず、むしろ逆に遅くなる方向に作用することだ。ただでさえHDDは遅いのに、さらに遅くなってしまう。われわれは大規模なクラウド事業者などとも協業しているが、彼らの中からも当社の製品の代わりにHAMRの導入を検討したいという声を聞いたことはない。理由はもちろん『遅すぎる』からだ」(Lee氏) HAMRは以前から研究開発が進められてきたHDDの高密度化技術の一つで、データの書き込み/書き換えの際に記録面の温度をレーザービームの照射で上昇させ、磁性体の磁気方向を変化しやすくするものだ。プラッター当たり3TB以上という記録密度が実現し、ドライブ当たり30TB以上という容量の製品が発表されている。HAMR採用製品の市場投入によってHDD市場が延命されるのではないかという観測も見られるが、Lee氏はこうした見方を否定している。