亡き師匠への恩義を胸に 文楽人形遣い・吉田和生が演じる「仮名手本忠臣蔵」塩谷判官
女方だった文雀も好んで遣った立役で、和生に引き継がれた。主君の品格が求められる大切な役であり、50歳で遣ったときに、「あの役で周りに認められた実感がありました」と、転機になったと語る。
体になじんだ役だが、「次に忠臣蔵の通し上演が出るのは5年後か6年後でしょう。そのときにまたできるかは気力体力によります」と表情を引き締める。
重い人形を左手一本で支える人形遣いは体力勝負でもある。年齢を意識したのが、76歳だった1月公演で勤めた女方の大役「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の政岡だ。「2時間させていただきましたが、これがもう最後かな、という覚悟でやりました」と静かに明かした。
文雀からは、公演ごとにどの役にどの人形の首を使うかを決める「首割(かしらわり)委員」の重責も引き継いだ。文楽の膨大な知識と作品への深い理解が必要で、「うちの師匠のはすごかった。まねはできませんね」。文雀と同じ人間国宝に認定され、文化功労者にも選ばれた。だが、師匠の背中は近づいたようで、まだ遠い。(田中佐和)
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11月文楽公演は11月2~24日。国立劇場チケットセンター(0570・07・9900)。