伊勢の名物「赤福」が手掛ける、小豆と米を知り尽くした職人から生まれた「洋菓子」
その時期に開発を進めて、2023年11月に発売されたのが和風フィナンシェの「饌 SEN-azuki-」である。生地にこし餡をブレンドした米粉を使用し、さらに小豆をちりばめて焼き上げた一品だ。 実際に食べてみたところ、米粉ならではのもっちりとした触感とこし餡の風味、そして、小豆のつぶ感がマッチしていて、とてもおいしかった。フィナンシェの発祥はフランスだが、日本の職人の手にかかると、ここまで複雑な味わいを表現できるのだ。まだまだ日本も捨てたものではない。
ここで注目したいのは、「饌」の原材料である米粉とこし餡、小豆。「饌」はうるち米、「赤福餅」はもち米。米の違いはあれど日本人の最も大切にしている稲作という原点がある。つまり、違う製造工程を辿ると「赤福餅」から「饌」に生まれ変わるのだ。もう、ブランディングとしては100点満点である。 「やはり、弊社の商品の行き着くテーマは小豆とお米なんですよね。ちなみに『饌』という商品名は、神事で神様にお米などの穀物をお供えする『神饌(しんせん)』が由来です」(川瀬さん)
■「あずきバターサンド」誕生秘話 また、川瀬さんの部下で「あずきバターサンド」を開発した奥田優那さんが洋菓子の職人として入社したのもコロナ禍でのこと。 奥田さんは専門学校で洋菓子を専攻していたが、卒業後は和菓子店で5年間働いていた。その経験を生かすことができたら洋菓子作りの幅が広がると思って入社したという。「あずきバターサンド」の開発は、バターサンドを和風にアレンジしてみようと思ったのがきっかけだったが、完成するまでには苦難の道のりが続いた。
「バタークリームと小豆をいかに馴染ませるかがカギでした。バタークリームは味と香りが強いので、どうしても小豆の風味が負けてしまうんです。そこでメレンゲを加えてふんわりとした口当たりにしようと思いました。でも、バタークリームとメレンゲの比率がつかめず、それぞれの分量を調整しながら作って、ベストな比率を見つけるしかありませんでした」(奥田さん) 「あずきバターサンド」は、2022年11月から試作と試食を繰り返して、翌2023年8月に発売された。時間の経過とともに出てくるメレンゲの水分を抑えるためにゼラチンを用いたり、小豆の旨味が抜けないように粒を残したまま茹でて、一晩ラム酒に漬けこんだりと、「あずきバターサンド」には洋菓子職人としての奥田さんの知識と経験、そして赤福餅で培った小豆の加工技術が詰まっている。