“漁師”になった女子大生 「一年漁師」を終えて彼女が辿り着いた港
2023年3月から、1年間だけの漁師「一年漁師」としてのスタートをきった檜森友香子さん。彼女を待っていたのは、これまでの漁業への概念を覆すような刺激的な日々だった。 【画像】檜森さんが経験した「一年漁師」の取り組みが農林水産大臣賞を受賞
問われる判断力と眠れる能力
檜森さんの趣味は手芸やアクセサリー作り。中学時代はバレー部、高校では弓道部に所属し、もともと体を動かすのが好きだったが、大学進学後はあまり運動をしていなかったため、体力に不安はあったという。ただ、元来の好奇心旺盛な性格と好きなことへの行動力で、漁業という「未知の世界」へ飛び込むことに、ためらいはなかったという。 檜森友香子さん: 大学3年生の時にコロナで休学になり、就活でもやりたいことがなく悩んでいる時期だった。そんな時に地元・佐賀でノリの養殖のアルバイトに行ったことをきっかけに、もっと漁業のことを知りたい、船に乗ってみたいという思いが強くなった。未知だったからこそ、先入観もなく飛び込めた カタクチイワシの漁は船団で行われ、網を積む網船と光に集まる習性のカタクチイワシを引き寄せる灯船、獲った魚を運ぶ運搬船、網の形を保つためにサポートする役割の船など7~8隻で操業する。灯船の周りに魚が集まってきたタイミングで網船が群れを大きく取り囲むように網を巻き、網を引き揚げたのち、速やかに運搬船に魚を積み込む。漁は臨機応変な対応と船団のチームワークが問われる。 檜森友香子さん: 自然が相手、漁のたびに状況が違って、ロープワークなどとっさにできないこともあった、その時その時で自分がどう動けばいいか考えた カタクチイワシの漁は魚群を見つけるまでは船員は“待ち”の状態。魚群を見つけると漁は帰港するまでノンストップのため、船員には寝られる時に眠れる能力、来たるべき瞬間のために体力を温存しておくことが必要とされる。
漁業の世界で女性が働く環境を
2021年3月から始まった天洋丸の「一年漁師」。檜森さんは一年漁師としては3代目で、それまでに2人の先輩がいた。2代目一年漁師の岸本希望さんの雇用にともない、職場環境を改善。それまでなかった船内のトイレを設置し、生理休暇を取得しやすくした。生理休暇の有給への変更と日数を増やしたりするなど、就業規則の改定も行った。檜森さんは体調が優れないときの会社の柔軟な対応に驚いたという。 檜森友香子さん: 漁に出る予定の日、体調が悪く、船長(30代)に申告すると「じゃあ、きょうは漁には出ずに加工場で」と配慮してくれた。生理休暇で休みを取らせてくれたりもした。他の漁業会社では漁によっては1週間帰ってこられなかったりするが、天洋丸は子供の行事などで休みをとらせてくれたり、体調に応じて柔軟に対応してくれる。肉体労働だからこそ福利厚生がしっかりしていると、働き手も集まってくるんだと感じた どの業界でも後継者や人材不足が課題だが、漁師の世界にもワークライフバランスの意識が生まれ始めている。