韓国航空機事故、尹大統領の弾劾に自制求める論調…「野党が国政揺るがすのは民心に逆行」
【ソウル=仲川高志】韓国南西部・全羅南道(チョルラナムド)の務安(ムアン)国際空港で29日、179人が死亡したチェジュ航空機事故は、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾(だんがい)の是非をめぐって左右の政治勢力が泥沼の政争を繰り返してきた国内状況を一変させた。 【動画】韓国で旅客機が着陸失敗、黒煙を上げて炎上する機体
30日付の韓国紙は「これ以上弾劾で政府を無力化させては困る」(中央日報社説)、「野党がこれ以上弾劾で国政を揺るがすことは民心に逆行する」(韓国経済新聞)と論じ、尹政権下で弾劾訴追案提出を繰り返した野党に自制を求めている。
韓国はこれまでも多数の死傷者を出す大惨事を経験してきた。そのたび、野党は、遺族や被害者の怒りや悲しみを政権へと振り向けてきた。
2014年4月に発生し、修学旅行中の生徒ら299人が犠牲となった旅客船「セウォル号」沈没事故では保守の朴槿恵(パククネ)政権が救助に乗り出すのが遅かったと批判した。22年10月にソウルの繁華街・梨泰院で159人が死亡した雑踏事故では警察の雑踏警備がおろそかだったと指摘した。
今回の事故は、尹政権を退陣させるために政府幹部を相次いで弾劾訴追してきた野党に抑制を求める契機となった。
野党はこれまで、戒厳令を宣布して弾劾訴追された尹氏の罷免(ひめん)の可否を決める憲法裁判所で空席となっている裁判官3人を早期に任命しなければ、崔相穆(チェサンモク)副首相兼企画財政相も弾劾訴追する構えだった。
ところが、左派系最大野党「共に民主党」の金潤徳(キムユンドク)事務総長は29日、「(任命の)期限はない」と柔軟姿勢に転じた。尹氏の内乱容疑を調べる特別検察官制度導入に崔氏が拒否権を発動したら弾劾訴追するのかと記者に問われても「忍耐心を持って説得する」と答えるにとどめた。
野党の弾劾などにより、政府は現在、大統領、首相、行政安全相が不在の状態だ。崔氏の弾劾訴追は当面困難との判断からだ。
「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表も政府批判を控えている。29日夜にはソウルから務安空港へ向かい、遺族らを直接見舞った。30日には空港に近い全羅南道の党支部で会合を開き、「遺族と一緒に全国民が泣いている。政府に積極的に協力する」と語った。