今年の夏はちょっとお得な「ジパング倶楽部」で甲斐と駿河の小旅をした
途中の身延駅は日蓮宗総本山の久遠寺最寄り駅。拠点駅だけにホームは長く立派だった。日本三大急流で知られる富士川にほぼ沿った路線。川の曲線に沿うようにして電車は走る。車掌室の速度計をのぞくと約40キロののろのろ運転だった。 この路線は一度も富士川は渡らず、最後まで富士川の左岸を走っている。静岡県入りしてやがて富士宮に到着。名所でもある「富士山本宮浅間大社」は歩いてすぐ。全国の浅間神社の総本宮とされる。ご神体はずばり富士山。残念ながら富士山はくっきりとは見えなかった。それでも雲の上に顔を出した真夏の富士山は周りの山と比べ威厳がある。神社の鳥居近くは土産物屋が多い。その中にありました。目指す「富士宮焼きそば」。そのうちの一店に入った。もちもちした焼きそばの感触に魚粉がかかってうまかった。小細工なしのシンプルな味だ。以前、東京でも富士宮焼きそばをどこかの何とかフェアで食べたが、やはり本場の方がはるかに美味。地名を冠した食べ物は地元が一番だ。
再度、富士宮から特急「ふじかわ6号」の指定席に乗車。ここからわずか10分ほどで富士へ。ここで身延線は終わりだが、「ふじかわ」はスイッチバックで向きを変え東海道線に入り、終点静岡を目指す。果たして富士から静岡までの約30分間、座席を進行方向に向けて回転させるのかどうか興味があったが、降りた富士のホームで見た限りでは変えている人はあまりいなかった。 スイッチバックする特急は結構全国にあるが、知る範囲では博多―大分間の「ソニック」の小倉では間違いなく向きを変える。西武池袋線の初代レッドアロー時代に乗った記憶では飯能でのスイッチバックで席を変えなかったようだ。残った距離や時間で座席を変えるかどうかが決まるのだろうが、窓から流れる風景はかなり違うはず。 富士からは各駅停車で沼津下車。途中の吉原、原なんて駅名を見ると東海道線を走っているなあ、との気持ちが強まる。路線バスで沼津港へ向かう。全国の大きな港にはたいがい干物店や新鮮な魚を食べさせる店が軒を連ねるが、ここはすごい。人であふれかえり、にぎやか。このコラムで以前紹介した、ひたちなか海浜鉄道の那珂湊近くの「おさかな市場」もにぎやかだったが、沼津はそれ以上。年末の上野アメ横商店街を思い出す。たたき売り状態の店で干物を大量に自宅に送り、エビやハマグリ、サザエといった魚介を自分で焼く「浜焼き」を楽しんだ。
沼津から再度各停に乗り次の三島へ。ここから久しぶりの新幹線「こだま」にてガラガラの車内でのんびりと終着東京までの約50分間を過ごし、2日間の小旅を終えた。 今夏の旅はこれで幕を閉じたが、乗車券は東京―甲府―沼津-東京の「片道乗車券」だった。65歳以上が使える「ジパング倶楽部」を利用したものだ。乗車券のみならず指定席特急券などの料金も3割引き。みどりの窓口での購入となる。会費は必要だが使うほどお得感のあるチケットと言えるだろう。 年を重ねたからこそ、チケットをフル活用してどんどん遠出しようと思っている。 ☆共同通信・植村昌則