【アーセナル分析コラム】強さの秘訣にアルテタではないもう1人の「天才」あり。セットプレーを進化させたその人物とは?
プレミアリーグ第38節アーセナル対エバートンが現地時間19日に行われ、2-1でホームチームが勝利した。アーセナルは勝ち点3を手にしたものの、残念ながら20年ぶりのリーグ優勝とはならず。それでも、最後までマンチェスター・シティを粘り強く追いかけることができたのは、とある部門の「天才」がいたからだ。(文:竹内快) 【動画】アーセナル対エバートン ハイライト
●対照的な2チームの共通点 アーセナルとエバートン、対照的なシーズンを送った2チームだが、1つ大きな共通点を持っている。それは、どちらもセットプレーを強みとしている点だ。 データサイト『Who Scored』によれば、今季のプレミアリーグでセットプレーから最も多くの得点を記録しているのがアーセナルだ。38試合で奪った全91ゴールのうち、20ゴールがセットプレーから生まれている。そして、ガナーズに続くのがエバートン。自慢の高さと強さを前面に生かして、全40ゴールのうち約半数の19ゴールをセットプレーから奪っている。 今季、アーセナルのセットプレーが猛威を振るった理由、それはミケル・アルテタ監督のそばに控えるニコラス・ジョバー氏の貢献が大きい。セットプレーに関して深い知識を持ったジョバー氏は、その分野の「天才」とも呼ばれている人物だ。 現在アーセナルのセットプレーコーチを務めるジョバー氏は、アルテタ監督と同い年の42歳。ジョバー氏と約半年間マンチェスター・シティで同僚だったアルテタは、アーセナルの監督として2021年に同氏をセットプレーコーチに任命した。そこから今季まで、3シーズンにわたってアーセナルで働いている。 アーセナルの大きな強みではなかったセットプレーを、たちまち得点源へと変貌させた「天才」。その仕事のほんの一部を見ていこう。 ●ジョバー氏のアイデア ジョバー氏が「天才」たる所以、それはピッチ上に揃う選手たちに合わせた最適なアイデアを豊富に用意していることにある。 『The Athretic』によれば、シーズン後半戦からデクラン・ライスが左コーナーキッカーを務めるようになったことも、ジョバー氏の影響があるようだ。最大の特徴は、セットプレーでゴールを決める選手、すなわち「本命」の選手にボールが届くまでの道筋を、細部に至るまで完璧に作りこんでいることだろう。 分かりやすい例を挙げると、アーセナルがフリーキックの時に味方選手たちをオフサイドポジションに配置するシーンを見てもらいたい。 キッカーがボールを蹴ると同時に、オフサイドポジションに立っていた複数の選手がゴールとは反対方向に動くことで相手ディフェンダーの動きを妨害。GKの目の前に広大なスペースを作り、そこに「本命」の選手が走り込むことでゴールネットを揺らす仕組みとなっている。 エバートンをエミレーツスタジアムに迎えたこの試合でも、そのアイデアの一部が垣間見られた。コーナーキックの際に上背のある選手をファーサイドに並べ、相手GKの付近にベン・ホワイトを配置。キッカーがボールを蹴る瞬間にファーサイドにいたカイ・ハフェルツがホワイトの近くまで走り込み、空いたスペースに「本命」のウィリアム・サリバ、ガブリエウ・マガリャインスなどがなだれ込んでゴールに迫っている。 今回はGKジョーダン・ピックフォードの好プレーもあって、セットプレーからゴールは生まれなかった。しかし、複数の選手が囮になったり、あるいは相手DFの動きを封じる壁となることで、相手にとって危険な位置に危険な選手=本命の選手をスムーズに送り込むことに成功している。 ●セットプレー強化の副産物 ジョバー氏がセットプレーコーチに就任したことで、実際にセットプレーの得点数も格段に増えている。就任前(20/21シーズン)はわずか6ゴールだったが、21/22シーズン以降16→15→20ゴールとその存在感は大きくなるばかり。当然、相手のセットプレーに対しても効果があり、今季はセットプレーからの失点がリーグ2番目に少ないチームとなった。 加えて、今季のアーセナルは、これまでとは異なり「内容があまり良くない試合」を無理やり勝利・引き分けに持っていく力が強かったように感じられる。「天才」ニコラス・ジョバー氏の仕事が、焦らず我慢強く攻撃を続ければ、いずれ相手ゴールをこじ開けられるだろうという自信を選手たちにもたらした。 味方が決定機をものにできない、サイドの守備が不安定など、思うような試合展開ではない状況が続いたときにワンチャンスをゴールに繋げるセットプレーは、勝ち点を積み重ねるのに大きな役割を果たしたのではないかと筆者は考えている。 自分たちがやるべきことはやった。それでも王者には、あと一歩届かなかった。 これは、受け入れなければならない現実だが、悲観する必要はないだろう。無敗優勝を達成した03/04シーズンに次ぐ、勝ち点89を獲得したことは大きな自信になる。ヤングガナーズの来季が待ちきれない。 (文:竹内快)
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