社説:エネルギー計画 現実を見ない原発回帰
国民的な議論を経ないまま、構造的欠陥を抱える原発への回帰は認められない。 経済産業省が新しいエネルギー基本計画の原案を示した。2011年の東京電力福島第1原発事故を踏まえた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除し、「最大限活用する」と明記した。 40年度の発電量全体に占める原発の割合を2割程度にする。そのために既存の原発のうち30基程度の再稼働を見通す。 人工知能(AI)の普及や半導体製造、データセンターの増加で電力需要が急増するとして、経済産業省や経団連などが声を強めていた。 今も収束が見えない福島事故の教訓に背を向け、脱原発の足場を崩す大転換である。 老朽原発を抱える関西電力や九州電力などの要望を踏まえ、建て替え要件緩和も明記した。同じ電力会社であれば、廃炉が決まった原発の敷地外でも建設を認める。 ただ、現在、運転中の原発は11基で、22基は停止中、20基は廃炉作業中だ。定期点検や老朽原発の廃炉を考慮すれば、30基を稼働させるのは、非現実的ではないか。 「低コストで経済性に優れる」という国の説明も揺らぐ。経産省の試算では、福島事故の廃炉や賠償、使用済み核燃料の再処理事業などで発電コストは大幅上昇が見込まれる。建設費も高騰している。 安全性や核のごみ処理の問題は、福島事故以後も変わらない。能登半島地震では、複合災害時の避難の難しさが明白になった。 再生可能エネルギーは4~5割の最大電源に位置付けたが、従来の「最優先で取り組む」との文言を削除した。二酸化炭素(CO2)の回収・貯留など、実用化にほど遠い技術の推進を盛り込む一方、CO2排出が多い石炭火力の縮減ペースを明確にしなかった。 全廃した英国をはじめ、石炭火力からの撤退が続く先進各国に比べ、気候変動対策で後ろ向きの姿勢が際立つ。 計画の決定過程は恣意的と言わざるを得ない。経産省が主導する有識者会議の委員は、原子力や石炭火力の推進論者が大多数を占める。自民党総裁選で「原発ゼロ」に言及した石破茂首相や、「原発に依存しない社会」を掲げる与党公明党の姿も見えてこない。 暮らしに直結する問題なのに、市民の意見表明の機会はパブリックコメントなどにとどまった。これで国民の理解を得られるとは思えない。