「貧相だと言ってたやつ、出てこい。」市川紗椰のコンフォート・フード「素パスタ」の意外な奥深さ
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、市川紗椰のコンフォート・フードだという「素パスタ」について語る。 * * * わがコンフォート・フード、素パスタ。胃袋はさておき、心を癒やしてくれるホッとする料理。手抜きの象徴と言われようとも、私は「素パスター」です。 素パスタとは、文字どおり具やソースのない素の状態のパスタ。そのビジュアルを「シンプル・イズ・ベスト」ととらえるか、「貧相」ととらえるかは人それぞれでしょうが、私は子供の頃からたまらなく好きです。 忙しい朝や面倒くさい夜、深夜に暴力的な飯が食べたいヤケ食いチックな場面でも素パスタが登場します。「素」といっても、こだわりがないわけではありません。手抜きにもいくつか形態があるので、紹介しましょう。 第1形態。ゆでたパスタをオリーブオイルと絡め、パルメザンチーズをたっぷりかけて黒こしょうを振ったもの。チーズはブロックのものを削ってかけるのがベスト。パルメザンではなくても、ペコリーノ・ロマーノのようなクセがあるものやチェダーみたいなマイルドタイプもおいしい。 オリーブオイルは上質なエキストラバージンを使い、粗びきのこしょうをかけたら最上級クラス。実際に、これはイタリアで定番の「カチョエぺぺ」とほぼ一緒。カチョエペぺはチーズとブラックペッパーのみのローマのパスタで、近年は日本でも人気。シンプルだからこそ奥深い料理として、店ごとの細部の違いを楽しむ人が多いそう。素パスタが貧相だと言ってたやつ、出てこい。 しかし、こんなにちゃんと(?)作ることはほぼない。第2形態、別名「クソパスタ」。チーズは筒状の容器で売られている、いわゆる粉チーズをドバ~。オリーブオイルもこだわらず、なんならバターをひとカケラ使うのもいい。ブラックペッパーがなくても、油とチーズで十分。油かチーズ、どっちかでもいいです。第3形態ではお湯すら沸かさず、電子レンジで麺をゆでます。ブヨブヨかつ、びちゃびちゃで雑さ極まりないけど、その奥には「省エネな自分」を許す優しさがあります。 ここでクソパスタの思い出をひとつ。高校時代、学食で毎日「ミートソース抜きのミートソーススパゲティ」を注文し、トッピング用の粉チーズをこれでもか!ってほどかけて食べてました。麺+粉チーのパサパサ感が、パスタの小麦の風味を際立たせる気がして。3年間ほぼ毎日これでしたが、1年目の途中で粉チーが有料になりました。明らかに私が使いすぎてたからで、同級生に怒られました。 日本で一番有名な素パスタは、2006年放送のカオスなアニメ『人造昆虫カブトボーグV×V(ビクトリーバイビクトリー)』に出てきたそれだと思います。第7話「涙の素パスタ!オーバー・ザ・レインボー」に登場したのは、オリーブオイルをかけただけの素パスタを申し訳なさそうに出す姉と、「世界で一番おいしい」と言うけなげなきょうだい。これを見た主人公リュウセイは「素パスタ、貧しすぎるよ」と涙を流しました。 しかし最近、強力な素パスターが登場。それは、あの大谷翔平さん。どうやら大谷選手は、パスタに塩だけかけて食べているそう。チームメイトはドン引きしていたとのことですが、栄養を考えて塩のみで召し上がってるそうです。まさに、素パスター界のスーパースター。あはは。 ●市川紗椰1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。麺料理では、名古屋で食べた長崎ちゃんぽんが最近のヒット。公式Instagram【@sayaichikawa.official】