故障の錦織圭 なぜ復活できたのか
まずは、謝らなくてはならない。前回のTHE PAGEの記事に「今回の錦織に期待はできない」と書いた。甘かった…。それでも、あの状況で「コートに立ちさえすればチャンスはある」と言うのは楽観的すぎたはずだ。今となってはこれも虚しい言い訳か。 とにかく、3週間前に右足親指の手術を受けたはずの錦織圭は、全米オープン開幕直前まで実戦どころか満足に練習もできていなかったはずなのに、大会6年ぶりのベスト16入りを決めた。3試合で1セットも落としておらず、これほど楽な勝ち上がりは過去6回のグランドスラム・ベスト16以上の経験の中でも例がないとは、いったいどういうことなのか。「勝ちたい、勝ちたいという気持ちが、今回は強すぎないのがいいのかもしれないですね」。 一因として錦織はそんなことも口にしたが、ツイていたことも確かだ。1回戦の相手が世界ランク176位のウェイン・オデスニック。2回戦の相手パブロ・アンドゥハルは過去に錦織が負けたこともある世界ランク48位だが、肘の痛みで第2セット後に途中棄権した。戦意を失ったのは錦織のほぼ完璧なプレーと無関係ではなかったはずだ。ツキはあったが、ツキからは自信は生まれない。 〈賭け〉と呼んだ1回戦、「逆に調子が良かったくらい」という驚きを漏らしたが、錦織はその理由をいくつも思いついたはずだ。単なる偶然ではないと思えたからこそ、驚きは急速に自信に変わったのだろう。3回戦で世界ランク26位のレオナルド・メイヤーにストレート勝ちした試合で、その自信が本物であることを確認した。 実戦不足という問題は、試合を通じてひとたび不安が消えたなら、あとはプラスに一気に転がる。試合をしていない分、体も心も非常にフレッシュな状態にあるからだ。そこで迎える相手が、同年代のライバル、ミロシュ・ラオニッチ。年は一つ違うが誕生日はたった2日違い。ウィンブルドンの4回戦で錦織に勝ち、錦織がまだ果たしていないグランドスラムのベスト4に進出し、大会後に世界ランクを6位まで上げた23歳を、意識するなというのは無理な話だ。〈ビッグ4〉を倒して次のテニス界を担っていく使命を負う立場として、「同じ土俵に立っている選手」と錦織は表現する。