自然死を願う夫と、延命を望む妻に起きた「哀しすぎる結末」…看取り医が語る「死の直前」の様子と、浴槽に浮かぶ「薔薇の花びら」の正体
話を遮る妻
私の患者だった達夫さん(仮名)は65歳だった。訪問診療を受ける層の中ではかなり若い方に位置する。彼は病院で頚椎症と診断されて手術に臨んだが、一向に症状が改善せず、再診の結果、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された方だった。 【マンガ】いったいなぜ?…火葬したら頭蓋骨が「群青色」だった「意外な理由」 頚椎症もALSも、筋力低下や運動機能の障害を引き起こすなどの症状が類似しているため、誤診されることが多い。ALSは運動ニューロンが障害されることにより筋力が徐々に低下し、最終的には全身の筋力低下や嚥下困難、呼吸困難を起こす。 症状が進行すれば、いずれ唾を飲み込むことも自力で呼吸することも困難になるため、生きるために胃ろうによる経管栄養や、気管切開を行って人工呼吸器を装着するのか、あるいは死を選択するか決めなくてはいけない時期がくる。どちらを選ぶにしてもとても辛い決断となる。だからこそ慎重に行う。 達夫さんの場合、入院中に方針が決まらなかったため、訪問診療に入る私に委ねられることになった。それゆえ初診時には、ケアマネージャーや訪問看護の責任者などが同席して、改めて病状や今後に関する予測、そして胃ろう、人工呼吸器のメリット、デメリットなどを伝えた。 介護ベッドに横たわる達夫さんは、体重が目に見えて減少し、病気が原因と思われる構語障害が進んでいるようだった。誤嚥もみられ、時々咳き込んでいる。まだ体は動かせるが、その中で掠れた声…医学的には嗄声の状態で、 「私は何もしたいと思いません」 と、やっとの思いで答えてくれた。 しかし、それを聞いた妻・茂子さん(62歳)は血相を変えて、「あなたは黙っていて!」と強い口調で話を遮り、興奮状態で、「うちの夫にやれることは、全てやってください!」と私たちに訴えた。 簡単には夫婦間のズレを解消できないと感じた私は、その日に結論を出すのを避けることにした。 外に出たタイミングで、看護師が私に教えてくれた。 「奥さまはとても一生懸命なんですよ…。病院の会議の時にも、『絶対うちの主人を守って見せる! それに反対するならその人を倒してでも、私は絶対に守ってみせる!』って絶叫して閉会になったようですから…」
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